この記事でわかること
- 外注手数料と内製人件費が逆転する広告費の水準
- 月額広告費50万〜1,000万円までのコスト試算
- 内製化の試算から漏れやすい採用費・教育期間・属人化リスク
- コスト以外に判断を左右する3つの要素
- 一部内製・一部外注のハイブリッド設計と役割分担
- 移行を進める場合の安全な順番
結論:分岐点は月額広告費300万円前後
先に結論を書きます。手数料20%を前提とした場合、月額の広告費が300万円を超えたあたりから、内製の人件費と外注手数料が拮抗し始めます。それ未満の規模では、金額だけを見れば外注が有利です。
ただしこれは「運用者1名で回せる」という前提を置いた単純比較です。実際には採用にかかる費用、立ち上がりまでの期間、その人が抜けたときのリスクを含めて考える必要があります。それらを織り込むと、実質的な分岐点はもう少し高い水準になります。
以下では、この数字がどう組み上がっているかを分解します。
外注のコスト構造
広告運用代行の費用は、次の3つで構成されるのが一般的です。
- 運用手数料:広告費の20%が国内の標準的な水準
- 最低手数料:広告費が少額の場合に適用される下限額(月10万円前後の設定が多い)
- 実費:クリエイティブ制作費、LP制作費など、手数料に含まれない作業
手数料20%は広告費に連動するため、広告費が増えるほど支払額も増えます。これが規模が大きくなるほど内製が検討される理由です。費用相場の詳細はリスティング広告運用代行の費用相場とMeta広告運用代行の費用相場にまとめています。
内製の本当のコスト
内製化のコストを「担当者1名の給与」だけで見積もると、実態から乖離します。企業が負担する総額は、給与に対しておおよそ1.3〜1.5倍になります。
| 項目 | 月額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 給与(広告運用経験者) | 35〜50万円 | 経験年数3年程度を想定 |
| 社会保険料の会社負担 | 5〜8万円 | 給与の約15% |
| 採用費の月割 | 4〜8万円 | 採用単価100万円を2年で割った場合 |
| ツール・教育費 | 2〜5万円 | 分析ツール、媒体の勉強会など |
| 合計 | 46〜71万円 | 採用できた場合の実質負担 |
月46〜71万円という水準は、手数料20%で換算すると広告費230万〜355万円分に相当します。これが冒頭の「300万円前後」という数字の根拠です。
月額広告費別シミュレーション
内製コストを月55万円(中間値)と置いた場合の比較です。
| 月額広告費 | 外注(手数料20%) | 内製(人件費等) | 差額 | 有利な選択 |
|---|---|---|---|---|
| 50万円 | 10万円 | 55万円 | ▲45万円 | 外注 |
| 100万円 | 20万円 | 55万円 | ▲35万円 | 外注 |
| 200万円 | 40万円 | 55万円 | ▲15万円 | 外注 |
| 300万円 | 60万円 | 55万円 | +5万円 | ほぼ拮抗 |
| 500万円 | 100万円 | 55万円 | +45万円 | 内製 |
| 1,000万円 | 200万円 | 110万円※ | +90万円 | 内製 |
※月1,000万円規模になると1名では運用が回らず、2名体制を想定しています。
表のとおり、金額だけで見れば300万円前後が分岐点です。ただし500万円以上でも内製化が進まない企業は多く、その理由は次章のコストが試算に入っていないためです。
試算から漏れる4つのコスト
上の表は「経験者をすぐ採用できた場合」の理想的な想定です。実際には次の4つが加わります。
- 採用にかかる期間:広告運用経験者の採用には3〜6ヶ月かかることが珍しくありません。その間の運用をどうするかを決めておく必要があります。
- 立ち上がりまでの期間:入社後、自社の商材と顧客を理解して判断できるようになるまで、最低でも2〜3ヶ月かかります。この期間の成果低下は機会損失としてコストです。
- 属人化リスク:1名体制では、その方の退職と同時に運用が止まります。月55万円の内訳には、この不確実性の対価が含まれていません。
- 媒体仕様の変更への追随:Google広告・Meta広告とも仕様変更の頻度が高く、情報収集そのものに時間がかかります。1社の運用だけを見ている担当者は、複数アカウントを横断的に見ている運用者より情報の入りが遅くなります。
これらを金額換算すると、実質的な分岐点は月額広告費400〜500万円あたりまで押し上がるというのが実務上の感覚です。
コスト以外の判断軸
金額が拮抗する水準では、次の3点が判断を分けます。
- 意思決定のスピード:社内にいれば施策の判断は速くなります。日次で予算を動かす商材では、この差が成果に直結します。
- 商材理解の深さ:顧客の解像度は社内のほうが高いのが通常です。特にBtoBや高単価商材では、この理解が訴求の質を左右します。
- 横断的な知見:複数業種・複数アカウントを見ている外部のほうが、他業界で効いた手法を持ち込めます。
自社の勝ち筋がどちらにあるかで、同じ広告費でも結論が変わります。
ハイブリッドという選択
実務上、最も現実的なのは全部か無かではなく役割分担です。よく機能する分担は次の形です。
| 業務 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| アカウント設計・媒体選定 | 外部 | 横断的な知見が効く領域 |
| クリエイティブの訴求設計 | 共同 | 商材理解(社内)と勝ちパターン(外部)の掛け算 |
| 日々の入稿・予算調整 | 社内 | スピードが価値になる |
| レポート集計・社内報告 | 社内 | 経営への説明は社内の文脈が必要 |
| 計測環境の構築 | 外部 | 頻度が低く専門性が高い |
注意点は、同じアカウントを2者が同時に触らないことです。誰がいつ何を変えたか分からなくなると、検証が成立しなくなります。
移行するなら順番が重要
内製化を進める場合、いきなり全面切り替えをすると成果が落ちます。次の順番を推奨します。
- アカウントを自社名義に移す:これができていないと、そもそも移行の選択肢が持てません
- レポートを社内で作れるようにする:数字の意味が分かる状態を先に作ります
- 1媒体・1キャンペーンだけ社内で運用する:小さく試して、必要な工数を実測します
- 範囲を広げるか、ハイブリッドで固定するかを判断する
アカウント移管の実務は広告アカウントは誰のものかを参照してください。
LnXの見解
内製か外注かのご相談をいただくとき、多くの場合、本当の論点はコストではありません。「今の運用が適切なのか誰も判断できない」という状態への不安が、コスト比較という形で表面化しています。
LnXでは、月間広告費1,000万円を超えるリスティングアカウントの設計・運用を担当し、4ヶ月でLTVを1.6倍に改善しました。この規模になると内製の損益分岐は完全に超えていますが、それでも外部に依頼される理由は、判断の material を持っている人間が必要だったからです。逆にMeta広告で獲得単価8,000円を1ヶ月で実現した案件では、広告費の規模は小さく、外注が明確に有利な水準でした。
つまり分岐点の数字は判断の出発点にはなりますが、それだけで決めるものではありません。LnXでは無料相談の段階で、まず現在の体制のまま改善できる余地がないかから確認しています。体制を変えずに解決するなら、それが最もコストの低い選択だからです。
よくある質問
Q 社内に広告経験者がいれば内製したほうが得ですか?
経験者が1名いる場合でも、その方が広告だけに専念できるかで結論が変わります。他業務と兼務であれば、実質的な稼働は想定の半分以下になることが多く、媒体の仕様変更への追随が遅れます。またその方が退職した際にノウハウが同時に失われる点も、金額に換算して考える必要があります。
Q 広告費が月50万円程度でも内製化は可能ですか?
技術的には可能ですが、コスト面では合理性が乏しくなります。月50万円の広告費に対して外注手数料は10万円前後です。一方、広告運用ができる人材の人件費は最低でも月30万円台からとなるため、金額だけを見れば外注が有利です。この規模で内製化を選ぶ理由があるとすれば、コストではなく社内にノウハウを残したいという目的の場合です。
Q 代理店に任せると社内にノウハウが残らないのが心配です。
契約の設計で解決できる部分があります。広告アカウントを自社名義で保有し、レポートを生データで受け取り、月次で判断根拠の説明を受ける形にすれば、意思決定の考え方は社内に蓄積されます。逆に、これらを取り決めないまま任せると、外注でも内製でもノウハウは残りません。
Q 一部だけ内製して残りを外注する形は非効率ではないですか?
役割の線引きが明確であれば非効率にはなりません。よくある分担は、日々の入稿・予算調整・レポート集計を社内が担い、アカウント設計・媒体選定・クリエイティブ戦略を外部が担う形です。逆に、同じアカウントを2者が同時に触る体制は避けてください。変更の意図が分からなくなり、検証が成立しなくなります。
Q 内製化したあとに外注へ戻すことはできますか?
可能です。ただし広告アカウントを自社名義で保有していることが前提になります。内製化の過程でアカウントを作り直している場合、その資産は残るため、戻す際のコストは代理店から代理店への乗り換えより小さくなります。
Q 運用ツールを導入すれば内製のハードルは下がりますか?
入稿や予算調整といった作業の負荷は下がります。一方で、どのキーワードに予算を寄せるか、どのクリエイティブを止めるかという判断はツールでは代替できません。ツールは作業時間を削減するものであって、判断できる人材の不足を埋めるものではないと考えたほうが、導入後の期待値がずれません。