この記事でわかること

  • 求人票をAIで作るときに、AIに任せる部分と人が決める部分の線引き
  • 厚生労働省が示す募集時の明示事項と、令和6年4月施行の追加事項(公式資料で確認できた範囲)
  • 先に人が埋める「事実シート」と、そのまま使える指示文の例
  • AIが間違えやすい5つの箇所と、公開前の突合チェック8項目
  • 募集情報を最新に保つための管理表

AIに任せるのは「文章化」だけ。条件は人が先に決める

結論から言うと、求人票をAIで作るときに最も大切なのは、指示文の工夫より、AIに渡す「事実」を人が先に確定させておくことです。AIは、渡された情報を読みやすい文章に整えるのは得意ですが、自社の賃金や就業場所を知っているわけではありません。事実が曖昧なまま「魅力的に書いて」と頼むと、AIは足りない部分を一般的な求人票の表現で埋めます。その結果、実態と違う条件が、もっともらしい文章で出てきます。

AIによる求人票作成を扱った記事では、メリット、使えるツール、プロンプトのコツ、注意点、人によるブラッシュアップという流れが共通して取り上げられていました。この記事では、そこに加えて厚生労働省の資料で確認できる「募集時の明示事項」を、AIに渡す情報の設計図として使う順番で整理します。指示文を磨く前に、何を書かなければならないかを固める、という考え方です。

なお、求人票の記載内容が法令や契約にどう関わるかの個別の判断は、社会保険労務士や弁護士等の専門家にご確認ください。この記事は、公式資料で確認できた範囲を前提にした実務の整理です。

先に人が埋める「事実シート」を作る

厚生労働省の労働局のページには、労働者の募集広告に表示が必要な事項として、募集主の氏名(または名称)、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金が挙げられています。(出典:労働者の募集|長野労働局(厚生労働省))

さらに、令和6年4月1日施行で、募集時などに明示すべき労働条件が追加されています。厚生労働省の資料で確認できた追加事項は、次のとおりです。(出典:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省)

追加された明示事項資料の記載の要点事実シートに書くこと
業務内容・就業場所の変更の範囲雇入れ直後の内容に加え、将来の配置転換なども含めて、契約期間中に変わり得る範囲配置転換や転勤の有無と、その範囲
有期契約の更新の基準「諸般の事情」のような抽象的な表現を避け、具体的に書くことが望ましい更新を判断する具体的な基準(例:勤務成績、態度)
通算契約期間・更新回数の上限更新の判断基準とあわせて、上限を示す上限の有無と、ある場合はその期間または回数
在籍出向・派遣出向先の就業場所や業務が変更の範囲を超える場合はその旨。派遣労働者として雇う場合はその雇用形態該当する場合のみ記載

資料には、求人票や募集要項に少なくともこれらの労働条件を明示するとあります。広告のスペースが足りないなどやむを得ない場合は一部を別のタイミングで明示できますが、その場合も、原則として面接など求職者と最初に接触する時点までに全てを明示します。この記事の表は、確認できた範囲を抜き出したものです。明示すべき項目の全体は、必ず資料の原文でご確認ください。

事実シートは、この項目に自社の実際の条件を埋めた、A4で1枚の表です。AIに渡すのは、この1枚だけにします。口頭の補足や前回の求人票のコピーを混ぜると、AIがどれを正として扱うかが不明になります。

AIで求人票を作る5ステップ

1

事実シートを作り、決裁者が確認する

前の章の項目を、実際の条件で埋めます。賃金は、含まれるもの(残業代の扱いなど)まで書きます。空欄や「要相談」の項目は、AIに渡す前に決めるか、「未定」と明記します。ここが曖昧だと、後のステップで直せません。

2

指示文に「書いてはいけないこと」を入れる

「事実シートにない条件は書かない」「数字は変更・丸めをしない」「不明な項目は『記載なし』と出力する」を毎回入れます。これだけで、AIが足りない部分を作り話で埋める確率が下がります。

3

下書きを2案出させ、構成だけ決める

文章の細部は後で直せるので、まず構成(仕事の内容、働き方、条件、選考の流れ)が応募者の知りたい順になっているかを見ます。表現の強さが違う2案を出させると、盛りすぎていないかも比べられます。

4

事実シートと1項目ずつ突き合わせる

下書きの数字・日付・固有名詞を、事実シートと並べて確認します。この作業はAIに任せず、人が行います。AIに「間違いがないか確認して」と頼んでも、同じ誤りを見落とすことがあるためです。

5

公開前に、事実を知る人がもう1人確認する

採用担当だけでなく、配属先の責任者や労務担当が、業務内容と就業場所、賃金を見ます。社内で決めた条件と違えば、求人票を直します。公開後に直すと、すでに応募した人との認識がずれます。

そのまま使える指示文の型

指示文は、役割・入力・禁止事項・出力形式の4つを分けて書くと、毎回の出力が安定します。次は一例です。【 】の部分を、自社の事実シートの内容に置き換えてください。

【役割】あなたは中小企業の採用担当を補助する編集者です。
【入力】次の「事実シート」だけを根拠に、求人票の下書きを作ってください。【事実シートをここに貼る】
【禁止事項】事実シートにない条件や福利厚生を書かない。数字(賃金・時間・日数)は変更や丸めをしない。事実シートが空欄の項目は、推測せず「記載なし」と出力する。
【出力形式】仕事の内容/働き方/勤務地/賃金/休日・休暇/選考の流れ、の順に見出しをつけて出力する。表現の強さを変えた2案を出す。

作った指示文は、個人のチャットに残さず、社内で共有できる場所に保存します。担当者が変わっても同じ品質で作れるようにするためです。

AIが間違えやすい5つの箇所と、防ぎ方

次の5つは、当社が生成AIを業務で使う中で、求人票のような条件を書く文書で起こりやすいと見ているパターンです。公的な統計に基づくものではなく、実務上の見立てです。

起こりやすい誤り具体例防ぎ方
数字の丸めや言い換え「月給25万円」を「月給25万円以上」と書く/所定労働時間を言い換えて変える指示文に「数字は変更しない」を入れ、突合で数字だけを別途確認する
書いていない福利厚生の補完事実シートにない「社会保険完備」「研修制度充実」といった定番の文言が加わる「事実シートにない条件は書かない」を入れ、福利厚生は1項目ずつ根拠を確認する
雇用形態の混同有期の契約を、無期のように読める書き方にする雇用形態と更新の有無を、事実シートの先頭に書く
更新の基準の曖昧化「更新の可能性あり」とだけ書く具体的な基準(勤務成績、態度など)と上限の有無を、事実シートに書いてから渡す
魅力づけの行き過ぎ「未経験から高収入」「風通しの良い職場」など、根拠のない強い表現表現の強さが違う2案を出させ、根拠が示せない表現を削る

とくに4つ目は、厚生労働省の資料が「諸般の事情」のような抽象的な表現を避けるよう示している点と重なります。AIは無難な言い回しを選びやすいため、人が基準を具体的に書いて渡すことが必要です。(出典:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省)

公開前の突合チェック8項目

求人票を公開する前に確認する8項目

  • 募集主の名称・住所・連絡先が、事実シートと一致している
  • 業務内容と就業場所が、事実シートと一致している。変更の範囲(配置転換・転勤)が書かれている
  • 賃金の金額・計算方法・含まれるものが、事実シートと一致している。数字が丸められていない
  • 雇用形態が正しい。有期の場合は、更新の基準と通算契約期間・更新回数の上限が具体的に書かれている
  • 事実シートにない福利厚生・制度・実績の記載が入っていない
  • 「高収入」「未経験歓迎」など強い表現に、根拠を示せる
  • 配属先の責任者または労務担当が、内容を確認した記録が残っている
  • 掲載する媒体ごとに、文字数制限で削った項目が面接時までに明示できる状態になっている

AIに入れてよい情報と、入れない情報

求人票の下書きに入れるのは、公開する予定の募集情報だけに限ります。具体的には、募集主の情報、業務内容、就業場所、賃金、休日、選考の流れです。

一方で、応募者の氏名・履歴書・面接評価、現社員の個別の給与や評価、公開していない給与テーブルの詳細は、求人票の作成に必要ありません。入れないのが基本です。個人情報保護委員会も、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出しています。(参考:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会)

AIサービスの学習利用の設定や、社内ルールの作り方は、生成AIの情報漏洩リスクはどこにある?と生成AIの社内利用ルールの作り方|6章構成で整理しています。

公開後は「事実シート」を原本にして、最新に保つ

厚生労働省の資料には、募集情報は掲載時点を示すなどして、正確かつ最新の内容に保つ義務があると書かれています。また、面接などで当初の明示内容が変わる場合は、変更内容を速やかに明示するとされています。(出典:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省)

求人票をAIで量産できるようになると、媒体ごとに文面が増え、条件が変わったときに直し漏れが出やすくなります。そこで、事実シートを唯一の原本にして、媒体ごとの管理表を持ちます。

管理する項目書く内容
掲載先と掲載ページのURLどの媒体のどのページか
事実シートの版どの日付の事実シートから作ったか
最終更新日と担当者いつ、誰が直したか
条件の変更履歴賃金・就業場所・雇用形態などを変えた日と理由
月1回の突合結果掲載中の文面と事実シートが一致しているか

条件を変えるときは、事実シートを先に直し、そのあとで各媒体の求人票を更新する順番にします。媒体の画面を先に直すと、どれが最新か分からなくなります。

AI活用のご相談

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LnXの見解

求人票は、応募者が自社と最初に出会う文書であり、同時に、入社後の認識のずれを減らすための約束に近いものだと考えています。だからこそ、AIで速く作ることよりも、事実を先に確定させ、突合してから公開する手順を先に整えることが大切です。

当社は、求人票の作成そのものを請け負うサービスは掲載していません。AI活用に関するご相談は、お問い合わせフォームの「AIに関するお問い合わせ」から受け付けています。ご相談いただける内容は、AIに任せる範囲と人が確認する範囲の線引き、事実シートや指示文の型づくり、社内ルールの整理といった、導入の設計の部分です。

求人票の記載が法令や契約にどう関わるかの個別の判断は、社会保険労務士や弁護士等の専門家にご確認ください。

よくある質問

Q ChatGPTのような生成AIだけで、求人票は完成しますか?

文章の下書きまでは作れますが、完成させるのは人です。賃金・就業場所・業務内容・雇用形態といった条件は、AIが推測できない自社の事実なので、先に人が決めてAIに渡す必要があります。下書きができたら、事実シートと1項目ずつ突き合わせてから公開してください。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士等の専門家にご確認ください。

Q 賃金は「月給25万〜35万円」のように幅で書いてもよいですか?

幅で書くこと自体はよく見られますが、その幅が実際の採用時にどう決まるのかが分からないと、応募者に誤解を与えるおそれがあります。AIに「魅力的に書いて」と指示すると、幅の上限側だけが強調されることもあります。下限と上限が適用される条件(経験年数など)を事実シートに書いたうえで、個別の表示方法は社会保険労務士等にご確認ください。

Q 有期雇用の求人では、何を追加で明示する必要がありますか?

厚生労働省の資料では、令和6年4月1日施行の追加事項として、有期契約の更新の基準と、通算契約期間または更新回数の上限が挙げられています。更新の基準は「諸般の事情」のような抽象的な表現を避け、「勤務成績、態度により判断する」のように具体的に書くことが望ましいとされています。(出典:募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!|厚生労働省)

Q 無料版の生成AIでも、求人票を作れますか?

文章を作る目的であれば無料版でも作れます。ただし、入力した内容が学習に使われる設定になっていないか、自社の利用ルールで許可されたサービスかを先に確認してください。求人票の下書きに入れるのは公開予定の募集情報だけにして、応募者の個人情報は入れないのが基本です。設定の確認方法は生成AIの情報漏洩リスクはどこにある?で整理しています。

Q 作り直すたびに文面が変わって、媒体ごとにばらつきます。

AIは同じ指示でも毎回少し違う文を出します。ばらつきを抑えるには、事実シートを原本にして、指示文の型を固定し、「事実シートにない内容は書かない」「数字は変更しない」という禁止事項を毎回入れます。指示文を社内で共有する方法は生成AIの出力が人によってバラつく?にまとめています。

Q AIで作った求人票は、応募者に分かってしまいますか?

分かるかどうかを断定することはできません。確かなのは、応募者が見るのは文章の作り方ではなく、書かれている条件と実際の条件が一致しているかだという点です。AIを使ったかどうかよりも、事実シートとの突合を終えているかを公開の条件にしてください。

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