この記事でわかること

  • 画像・動画の生成AIを業務に入れて効果が出る領域と、労力の割に合わない領域の見分け方
  • 「作れるかどうか」ではなく「公開できるかどうか」で工程を設計する考え方
  • 社内フローの5ステップ。誰が何を決め、どこに人のチェックを置くか
  • 公開前チェックリスト(権利・表示規制・事実性・ブランド整合)
  • 担当者に必要なのはプロンプトの技術ではなく、指示を言語化する力である理由

効果が出る領域は「量が多く、正解の幅が広い」ところ

画像や動画の生成AIを業務に入れるとき、最初につまずくのは「何に使うか」です。試しに触ると想像以上のものが出てくるので、いきなり主力の広告クリエイティブやブランドのメインビジュアルを作ろうとして、そこで止まります。そちらは要求水準が高く、修正の往復が増えて結局デザイナーに頼むより時間がかかるからです。

判断の基準はシンプルです。「必要な量が多く、1点あたりの正解の幅が広い」用途から入れると、ほぼ確実に工数が下がります。逆に「点数は少ないが1点の完成度が事業を左右する」用途は、人の作業のままにしておくほうが速いです。

用途 向き・不向き 理由
資料・提案書の図解/イメージ画像 向いている 点数が多く、要求水準は「伝わればよい」。有料素材の代替になる
ブログ・コラムのアイキャッチ 向いている 記事数に比例して必要になる。トーンを揃えるだけでよい
広告クリエイティブの検証パターン 条件つきで向いている 訴求の当たりを探す段階なら量が効く。当たった型は作り込む
SNS投稿の背景・装飾 向いている 毎日の投下量が多く、1点の完成度より継続性が効く
社内向けの説明動画・研修動画 向いている ナレーションとスライドで成立する。外向けの体裁が不要
商品写真・実物のビジュアル 向いていない 実物と違うものを出せば表示上の問題になる。撮影が必要
ブランドのメインビジュアル 向いていない 1点の完成度が事業を左右する。修正の往復コストが大きい
実在の人物が登場する動画 向いていない 肖像権・パブリシティ権の問題が生じる。合成は使わない

最初の1か月は「有料素材サイトで探していた画像」を置き換えるところに限定すると、成果が測れます。素材を探す時間と購入費用という比較対象がすでにあるため、効果の判定が簡単です。ここで社内の手応えが出てから、広告やSNSに広げるのが失敗の少ない順序です。

使わないほうがいい場面

「作れる」と「業務で使える」は別です。次の4つは、出力の質に関係なく使わない判断をしたほうがよい場面です。

1

実物と違う印象を与えるとき

商品や店内、施工実績など、実物が存在するものを生成画像で表現すると、実物との差が問題になります。「イメージです」と注記しても、購入や来店の判断に影響する箇所では通りません。飲食・不動産・美容・医療のように、実物と体験がそのまま商品になる業種では、この線引きを社内ルールとして明文化しておいてください。

実物があるものは撮影する。生成画像で代替しない
2

特定の人物・作品に寄せたいとき

実在の人物に似た顔、特定の作家やブランドの作風に寄せた絵柄は、権利上の問題を抱えます。「〜風」という指示で作ったものを社外に出すのは、成果物の質とは別の理由で避けるべきです。社内のプロンプト共有の場に、固有名詞を入れた指示を残さないルールにしておくと、後から誰かが使ってしまう事故を防げます。

3

機密情報や個人情報を含む素材を渡すとき

画像や動画の生成では、参考画像や既存素材をアップロードする使い方が便利です。ただし顧客の顔が写った写真、社内の資料、図面などをそのまま渡すと、サービスの学習利用設定によっては情報が外に残ります。使用するサービスごとに学習利用の設定を確認し、アップロード可能な素材の範囲を先に決めてください。

サービスごとの学習利用設定と、渡せる素材の範囲を先に決める
4

修正の往復が3回を超えたとき

意図した構図に寄らないまま指示を書き換え続けると、デザイナーに頼んだほうが速い時間帯に入ります。「3回作り直して意図に近づかなければ、その用途はAIに向いていない」という撤退ラインを社内で決めておくと、無限に触り続ける状態を防げます。向いていない用途を見つけるのも成果です。

社内フローの5ステップ

個人が思いつきで使うだけだと、品質もばらつき、権利の確認も抜けます。次の5ステップに落とすと、担当者が変わっても同じ品質で回ります。

1

用途を先に登録する

「アイキャッチ」「提案書の図解」「SNS投稿の背景」のように、使ってよい用途を一覧にします。一覧に載っていない用途で使いたい場合は、追加の可否を判断する人を1人決めておきます。この一覧があるだけで、「実績写真の代わりに生成画像を使ってしまう」という事故がほぼ起きなくなります。

2

トーンの基準を1枚決める

色数、明るさ、写実かイラストか、人物を入れるか。基準となる画像を1〜2枚選んで社内で共有し、以降はそこに寄せる指示を使います。これをやらないと、担当者ごとにテイストが違う画像が並び、サイト全体の印象がばらつきます。作業を早くする以前に、揃えるための基準を作るほうが先です。

「この画像に寄せる」の基準を作り、指示文とセットで共有する
3

指示文をテンプレート化して置き場所を作る

うまくいった指示文は、用途別に保存して再利用します。個人のチャット履歴に残っている状態では資産になりません。「用途/基準画像/指示文/使ってよい範囲」を1行にした表をスプレッドシートに置き、誰でも引ける状態にしておいてください。生成物の品質のばらつきは、指示文が共有されていないことが原因のほとんどです。

4

公開前チェックを1人が通す

社外に出るものは、作った人以外が確認します。確認するのは出来の良さではなく、次章のチェックリストに沿った「出してよいか」の判断です。作った本人は良く見えるようになっているので、ここは必ず別の目を通してください。件数が多い場合は、用途ごとにチェックの粒度を変えて構いません。

5

生成物と指示文を紐づけて保管する

公開した画像・動画について、いつ・どのサービスで・どの指示文から作ったかを記録します。後から権利や表示について指摘を受けたときに、生成物であること・どう作ったかを説明できる状態にしておく必要があります。ファイル名に日付と用途を入れるだけでも、後追いの負担がかなり変わります。

ファイル名と管理表で、生成日・サービス・指示文を追えるようにする

公開前チェックリスト

社外に出す画像・動画について、次の項目を確認してから公開します。時間をかけるべきは生成そのものではなく、この工程です。

社外公開前に確認する項目

【権利】

  • 実在の人物・キャラクター・ロゴに似ていないか
  • 特定の作家やブランドの作風を指定して作っていないか
  • 使用したサービスの利用規約で、商用利用が認められている範囲か
  • アップロードした参考素材に、他社の著作物や顧客の個人情報が含まれていないか

【表示・表現】

  • 実物・実績・成果を表す画像として使っていないか(イメージであることが明確か)
  • 業種特有の広告規制(医療・医薬品・美容・金融など)に触れる表現が入っていないか
  • 体験談・利用者の声のように見せる使い方をしていないか
  • 文字が画像内に生成されている場合、誤字や意味の破綻がないか

【事実性とブランド】

  • 図解の内容が事実として正しいか(数値・関係・順序)
  • 手の指の本数、文字、道具の形など、破綻が残っていないか
  • 社内で決めたトーンの基準から外れていないか
  • 同じページ・同じ媒体内で、テイストが混在していないか

「イメージです」の注記は万能ではありません。実物と著しく異なる印象を与える場合や、成果・実績と誤認させる場合は、注記があっても表示上の問題になり得ます。実物が存在するもの、成果を示すものについては、生成画像を使わないと決めておくのがいちばん安全です。

コストと工数をどう見るか

ツールの料金は改定が頻繁なので、金額での比較は各サービスの公式ページで最新を確認してください。ここで整理したいのは、工数がどこで減り、どこで増えるかです。

工程 AIを入れる前 入れた後
素材を探す 素材サイトを回遊。要件に合うものが見つからないことも多い 大幅に減る。要件に合わせて作れる
制作を依頼する 依頼書を書き、往復し、納品を待つ 簡易な用途では不要になる
指示を書く 増える。ここが新しい仕事になる
選ぶ・作り直す 増える。撤退ラインを決めておかないと膨らむ
公開前チェック 素材サイトのライセンス確認のみ 増える。権利と表示の確認が必要になる
資産の管理 購入した素材の管理 指示文と生成物の紐づけ管理が新しく必要になる

合計で工数が減るかどうかは、点数によって決まります。月に数点なら、チェックと管理の手間が増える分だけ損になることもあります。逆に月に数十点を扱う用途——記事のアイキャッチ、SNSの投稿、提案書の図解——では、明確に減ります。導入の判断は「使えるか」ではなく「その用途で月に何点必要か」で行ってください。

必要なのはプロンプトより「指示を言語化する力」

研修のテーマとして「プロンプトの書き方」が挙がりますが、実務で差が出るのはそこではありません。差が出るのは、作りたいものを言葉で分解できるかどうかです。これはデザイナーに依頼書を書く作業とほぼ同じ内容です。

  • 用途:どこに置く画像か(記事の先頭/広告/資料の1枚)
  • 伝えたいこと:見た人に何を思ってほしいか(安心/スピード感/専門性)
  • 構図:主題は何か、視線をどこに置くか、余白をどこに取るか
  • 入れないもの:文字、人物の顔、特定の色
  • サイズと形式:縦横比、書き出し形式

この5項目を書けない状態でツールを触ると、出てきたものを見て「なんとなく違う」と言い続けることになります。逆に書けていれば、使うサービスが変わっても同じ品質に到達できます。社内でAIを広げるときは、ツールの操作研修より、この依頼書の書き方を1枚のフォーマットにするほうが効きます。

「入れないもの」を書く欄を作るのが実務的なコツです。生成AIは指示していない要素を勝手に足すため、除外条件を先に書いておくと修正の往復が減ります。文字を入れないと決めておくだけで、画像内の誤字を直す作業がなくなります。

権利と表示規制の注意点

最後に、社内ルールに落としておくべき論点を整理します。細かい判断基準は別記事で扱っているので、ここでは画像・動画に固有の点に絞ります。生成AIと著作権の関係については、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が取りまとめた考え方が公表されているので、社内ルールを作る際はそちらも確認してください(出典:AIと著作権について|文化庁)。

論点 実務上の扱い
生成物の著作権 人の創作的な関与が乏しい生成物は、著作権が発生していない可能性がある。自社の独占的な資産として扱う前提の使い方(ロゴなど)は避ける
既存の著作物との類似 出力が既存作品に似ていた場合、生成AIで作ったことは免責の理由にならない。公開前の目視確認を工程に入れる
肖像権・パブリシティ権 実在の人物に似た顔は使わない。社員の写真を素材として渡す場合は、本人の同意を取る
利用規約の商用利用条件 サービスやプランによって商用利用の可否・条件が異なる。契約プランを変更したときは条件を再確認する
業種別の広告規制 医療・医薬品・美容・金融などは、画像による表現も規制の対象。生成画像かどうかは関係ない
生成物であることの開示 法令上の一律の義務ではないが、報道・実績・体験談に近い文脈では、誤認を避けるため注記する運用が無難

文章と画像に共通する著作権の判断基準や、社内チェック体制の作り方については、生成AIで作った文章・画像は業務で使っていい?著作権の判断ポイントと社内チェック体制で詳しく整理しています。あわせてご覧ください。

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LnXの見解

画像や動画の生成AIは、触った瞬間の驚きが大きいぶん、業務への入れ方を間違えやすい領域です。いきなり主力のクリエイティブを置き換えようとして止まる会社と、資料の図解やアイキャッチから静かに置き換えて工数を落とす会社に、はっきり分かれます。後者から始めてください。効果が測れる比較対象がすでにあり、失敗しても損失が小さいからです。

そして、増える仕事があることを見込んでおいてください。指示を書く、選ぶ、公開前に確認する、指示文と生成物を管理する——この4つは新しく発生します。点数が少ない用途では、この増加分が削減分を上回ります。「AIで作れるか」ではなく「その用途で月に何点必要か」で判断すると、導入すべき箇所と、まだ人がやるべき箇所が自然に分かれます。

もうひとつ。実物があるものは撮る、成果を示すものは実データを使う。この2つは崩さないほうがいいと考えています。集客の現場で信頼を落とすのは、画像の出来ではなく「実物と違った」という体験です。当社は自社のオウンドメディアやSNSでも、判断は人・作業はAIという切り分けで運用しています。どの業務からAIに任せるか、社内のルールとフローをどう作るか。現状の業務を伺って一緒に整理するところから対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q 生成した画像を広告に使っても問題ありませんか?

用途によります。訴求の当たりを探す検証用のパターンであれば、量が効くので向いています。一方で、商品の実物や施工実績、店内の様子など「実物が存在するもの」を生成画像で表現するのは避けてください。実物と異なる印象を与えると、表示上の問題になります。また、使用しているサービスのプランで商用利用が認められているかを、配信前に必ず確認してください。

Q 生成AIで作った画像に著作権はありますか?

人の創作的な関与が乏しいまま生成された画像は、著作権が発生していない可能性があります。つまり他社が同じような画像を使っていても、差し止めを主張できないことがあります。そのため、ロゴやシンボルのように「自社だけが使える資産」である必要があるものは、生成AIで作らないほうが安全です。逆にアイキャッチや図解のように、独占する必要がない用途では実務上の支障になりません。

Q 社内の誰でも自由に使わせて大丈夫ですか?

使ってよい用途の一覧と、公開前チェックを通す担当だけは決めてください。禁止する方向で管理すると、結果として個人が私物のアカウントで使う状態(シャドーAI)になり、把握できなくなります。使ってよい範囲を明示し、一覧にない用途は判断する人に確認する、という形にするほうが実務的です。あわせて、アップロードしてよい素材の範囲も決めておいてください。

Q 「AI生成です」と明記する必要はありますか?

一律の法令上の義務ではありませんが、文脈によっては注記する運用が無難です。判断の目安は、見た人が実物・実績・体験談として受け取る可能性があるかどうかです。イメージカットや図解であれば注記は不要なことが多く、実績紹介や利用者の声に近い文脈では、注記があっても生成画像を使わない判断のほうが安全です。社内で「注記する用途」と「使わない用途」を先に分けておいてください。

Q 思った通りの構図になりません。どうすればよいですか?

指示を長く書き足すより、5項目に分解して書き直してください。用途、伝えたいこと、構図(主題と視線と余白)、入れないもの、サイズと形式です。特に「入れないもの」を明示すると往復が減ります。それでも3回作り直して意図に近づかない場合は、その用途は現時点で向いていないと判断して、人の作業に戻すか参考画像を用意する方法に切り替えるのが早いです。

Q 動画は画像と同じ考え方で導入できますか?

基本の考え方は同じですが、確認の負荷が上がります。動画は尺の全体を通して見ないと破綻に気づけないため、公開前チェックの時間が画像より長くかかります。社内向けの説明動画や研修動画のように、外向けの体裁を求められないものから始めるのがおすすめです。社外向けの動画に使う場合は、実物の映像が必要な箇所と、生成で足せる箇所を先に切り分けてから着手してください。

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