この記事でわかること

  • CACとCPAは何が違い、どこまでの費用をCACに入れるべきか
  • LTVの3つの計算式(粗利ベース/継続率ベース/BtoBの契約ベース)の使い分け
  • LTV/CAC比と回収期間、中小企業がどちらを判断に使うべきか
  • 出した数字を、広告の上限CPAとチャネル別の予算に落とす手順
  • 改善の打ち手をCAC側とLTV側に分け、どちらから手をつけるかの決め方
  • 計算を狂わせるよくある間違い5つ

CACとLTVは何を表す数字か

広告やSEOの予算を決めるとき、「いくらまで使っていいか」の答えは、実は2つの数字だけで決まります。顧客を1人増やすのにいくらかかっているか(CAC)と、その顧客が取引期間全体でいくらの粗利を残すか(LTV)です。この2つが出ていないと、CPAが高いか安いかの議論は永遠に感覚論になります。

指標 数えている対象 分母に入る費用 主な用途
CPA
(顧客獲得単価)
問い合わせ・資料請求などのコンバージョン1件 原則として広告費のみ 広告運用の日々の調整
CAC
(顧客獲得コスト)
実際に取引が始まった顧客1人・1社 広告費+制作費+ツール費+人件費 投資判断、チャネル比較
LTV
(顧客生涯価値)
1顧客が取引期間全体で残す粗利 ―(粗利で計算する) CACの上限を決める

実務でいちばん多い混同は、CPAをCACだと思って使ってしまうことです。問い合わせ10件のうち成約が2件なら、CPA 3万円でもCACは15万円です。広告の管理画面に出ているCPAだけを見て「安く取れている」と判断すると、実際の獲得コストを5倍見誤ります。

LTVは「売上」ではなく「粗利」で出してください。売上で計算すると、原価率の高い商材では実態より大きな数字が出て、その分だけCACの上限も過大になります。上限を誤ると、赤字の獲得を「まだ投資できる」と判断し続けることになります。

CACの出し方と、入れ忘れやすい費用

基本の式はシンプルです。

CAC = 一定期間にかかった獲得費用の合計 ÷ 同じ期間に増えた新規顧客数

難しいのは分子です。「獲得費用」に何を入れるかで、CACは簡単に2倍変わります。次の表を基準に、自社で入れる/入れないを決めて固定してください。大事なのは正解を当てることではなく、毎月同じ定義で出し続けることです。

費用 扱い 入れ忘れると起きること
広告費(媒体費) 入れる
代理店の運用手数料 入れる 手数料率の違うチャネルを不公平に比較する
LP・クリエイティブの制作費 入れる(期間で按分) 立ち上げ月のCACが実態より安く見える
MA・CRM・計測ツールの利用料 入れる 件数が少ない時期のCACを過小評価する
マーケ・営業担当の人件費 入れる(獲得に使った時間分) 人手のかかるチャネルが不当に有利に見える
既存顧客のフォロー費用 入れない ―(LTV側の話になる)
ブランド認知の広告費 分けて管理 短期のCACが悪化して見え、施策を止めてしまう

期ズレを吸収する

今月使った広告費が今月の受注につながるとは限りません。BtoBや高単価商材では、初回接触から受注まで2〜3か月かかることが普通です。当社が実務で見ている範囲では、商談期間が1か月を超える事業なら、CACは単月ではなく3か月の移動平均で見るほうが安定します。単月で見ると、広告を止めた翌月にCACが極端に良く見えるといった読み違いが起きます。

チャネルごとに分けて出す

全チャネルを合算した「ブレンドCAC」は、事業全体の健全性を見るには有効ですが、予算配分の判断には使えません。指名検索や紹介で入ってくる安い顧客が混ざると、新規チャネルの実力が見えなくなります。最低でも、①指名・紹介などの既存資産、②広告、③SEO・オウンドメディア、の3つに分けてください。

LTVの3つの出し方

LTVの式は1つではありません。事業モデルに合わない式を使うと、それらしい数字が出るのに判断の役に立ちません。次の3つから選んでください。

1

粗利ベース(物販・来店型)

LTV = 平均購入単価 × 粗利率 × 年間購入回数 × 平均継続年数

ECや飲食、サロンなど、購入・来店の回数が数えられる事業に向きます。継続年数は希望的観測ではなく、実際の顧客データから「初回購入から最終購入までの平均」を出してください。データが1年分しかない場合は、無理に3年と置かず1年で計算し、そのことを明記します。

単価×粗利率×回数×年数。4つとも実データから取る
2

継続率ベース(サブスク・月額課金)

LTV = 1顧客あたりの月次粗利 ÷ 月次解約率

月額課金のサービスに使います。解約率5%なら平均継続は20か月という計算になります。注意点は、解約率が低いほど数字が跳ね上がる式だという点です。解約率1%と置くとLTVは100か月分になりますが、サービス開始から1年しか経っていない事業でその数字を根拠に投資判断をするのは危険です。

運用歴が短いうちは、実測できた期間までで切って使う
3

契約ベース(BtoB・受託)

LTV = 年間契約額 × 粗利率 × 平均継続年数 + 追加受注の粗利

顧問契約や保守契約のように年単位で動く事業に向きます。BtoBでは、初回の契約額よりも追加受注のほうが大きくなることがあるため、アップセル分を別項目で足すと実態に近づきます。顧客の規模帯(従業員数や年商)でLTVが大きく変わるので、1つの平均値にまとめないほうが使えます。

規模帯別に3段階くらいで出す

割引現在価値(将来の粗利を利率で割り引く処理)は、中小企業の実務では省いて差し支えありません。計算が複雑になる割に、判断が変わるほどの差が出ないためです。それよりも、粗利率と継続年数を実データから取ることに時間を使ってください。

LTV/CAC比と回収期間の使い分け

2つの数字が出たら、判断の仕方は2通りあります。

指標 計算 見ているもの 向いている事業
LTV/CAC比 LTV ÷ CAC 投資1に対して何倍の粗利が返るか 継続取引が長く、資金に余裕がある
回収期間
(CACペイバック)
CAC ÷ 1顧客あたりの月次粗利 使ったお金が何か月で戻るか 資金繰りがタイトな中小企業

LTV/CACは「3倍が目安」と語られることが多い指標ですが、出所が明確な公的基準があるわけではありません。当社が実務で見ている目安としては、3倍を超えていれば投資を増やす判断がしやすく、1.5倍を下回るなら獲得の仕方そのものを見直す、という水準感です。ただしこれは業種と粗利率で変わるため、他社の数字と比べるより、自社の前年同期と比べるほうが役に立ちます。

中小企業は回収期間のほうが効く

LTV/CACが5倍でも、回収に18か月かかるなら、その間の運転資金が持ちません。「LTVは十分あるのに広告を増やせない」という相談の大半は、回収期間の問題です。回収期間を短くする打ち手は、初回単価を上げる、初回に複数商品を買ってもらう、年間一括払いの選択肢を用意する、といった形で、LTV全体を増やすのとは別の工夫になります。

上限CPAとチャネル予算に落とす

CACとLTVは、出して眺めるための数字ではありません。広告の管理画面で毎日触る「上限CPA」まで落として、はじめて運用が変わります。

1. 目標CACを決める

LTVと、許容できる回収期間から逆算します。たとえばLTVが30万円で、LTV/CACを3倍以上に保ちたいなら、目標CACは10万円です。回収期間を6か月以内にしたいという制約があるなら、月次粗利×6か月がCACの上限になり、こちらのほうが厳しければそちらを採用します。

2. 上限CPAに変換する

上限CPA = 目標CAC × 問い合わせから商談化する率 × 商談から受注する率

目標CACが10万円、問い合わせの商談化率が50%、商談の受注率が40%なら、上限CPAは10万円×0.5×0.4=2万円です。この2万円が、広告の入札やキーワードの取捨選択を決める基準になります。逆に言うと、商談化率と受注率を把握していない状態では、上限CPAは決められません。

3. 顧客の質でセグメントを分ける

すべての顧客のLTVが同じということはありません。同じ商材でも、流入キーワードや広告グループによって、その後の継続率や単価は大きく変わります。期待LTVが高いセグメントには高い上限CPAを、低いセグメントには低い上限CPAを設定すると、全体の予算を増やさずに成果が動きます。

LTV最適化の進め方を示した4ステップのフロー図と、施策前後のLTVを比較した棒グラフ
LTV 1.6倍(上場人材会社のリスティング広告、4ヶ月)。顧客をLTVの高・中・低で分割し、セグメントごとに目標CPA(tCPA)を個別最適化した結果です。獲得件数を追うのではなく、獲得した顧客の質で入札を変える設計に切り替えています。出典:LnX合同会社 支援実績(事例詳細はこちら

4. チャネル別に予算の上限を決める

チャネルごとにCACを出しておくと、予算配分の議論が数字で終わります。CACが目標を下回っているチャネルは予算を増やし、上回っているチャネルは改善か縮小、という単純な判断ができるようになります。ただし、SEOやオウンドメディアのように効果が遅れて出るチャネルは、単月のCACで判断すると必ず割高に見えます。これらは投資回収の期間を別に設定してください。

改善はCAC側とLTV側に分ける

数字が悪いとき、打ち手は2方向あります。混ぜて議論すると優先順位が決まらないので、先にどちらの問題かを切り分けてください。

症状 どちら側の問題か 先に手をつけること
CPAは目標内なのにCACが高い CAC側(商談化・受注の歩留まり) リードの質、営業の対応速度、フォローの設計
CPA自体が上限を超えている CAC側(入口の効率) キーワード・配信面の整理、LPの改善
CACは適正だが回収に時間がかかる LTV側(初期の単価) 初回単価の引き上げ、セット販売、年間契約
初回は買われるがリピートしない LTV側(継続) 初回後のフォロー、定期便、解約理由の把握
顧客数は増えているが利益が増えない LTV側(粗利率) 原価と値引きの見直し、商品構成の変更

どちらから着手するか

判断の基準は単純です。回収期間が長いならLTV側、CPAが上限を超えているならCAC側から手をつけます。そのうえで、既存顧客を持っている会社なら、LTV側のほうが成果が早く出ることが多いです。新規獲得のCPAを2割改善するより、既存顧客のリピート率を2割上げるほうが、必要な工数も広告費も小さく済みます。

CAC側とLTV側は、担当部署が分かれていることが多いのも問題を長引かせます。マーケティングがCPAを追い、営業が受注数を追い、誰もCACとLTVを見ていない、という状態がよく起きます。月次の定例で、この2つの数字を毎回同じ定義で出すだけで、議論の焦点が変わります。

よくある間違い5つ

1

LTVを売上で計算している

もっとも多く、もっとも危険な間違いです。原価率60%の商材で売上ベースのLTVを使うと、許容できるCACを2.5倍に見誤ります。粗利で出し直すと、それまで「回っている」と思っていた獲得が赤字だったと分かるケースがあります。

2

CACに人件費を入れていない

広告費だけでCACを出すと、人手のかかるチャネル(テレアポ、展示会、SNSの手運用)が実態より有利に見えます。担当者の時間を金額に直して分子に入れると、チャネルの順位が入れ替わることがあります。

時間単価×稼働時間を、チャネルごとに月次で記録する
3

継続年数を希望で置いている

「うちのお客様は長く続くので5年」といった根拠のない前提でLTVを出すと、投資判断が丸ごとずれます。実データが1年分しかないなら1年で計算し、期間が伸びたら更新する、という運用が正しいです。

4

全チャネル合算のCACしか見ていない

指名検索や紹介で入る顧客が混ざると、全体のCACは良く見えます。その状態で「CACは問題ない」と判断すると、広告チャネル単体では赤字が続いていることに気づけません。最低3区分に割って見てください。

5

単月の数字に反応しすぎる

受注が数件しかない月のCACは、1件の増減で大きく振れます。件数が少ない事業では、単月ではなく3か月の移動平均で見て、傾向が2期続けて悪化したときに手を打つ、というルールにしておくと判断が安定します。

毎月方針を変えると、どの施策も評価できなくなる

運用に乗せるためのチェックリスト

そのまま社内共有できる項目

【定義を決める】

  • CACの分子に入れる費用を一覧で決め、文書にした
  • 人件費の算入ルール(時間単価と記録方法)を決めた
  • LTVを粗利ベースで計算することを確認した
  • 事業モデルに合う3つの式のうち、どれを使うか決めた
  • 継続年数・継続月数の根拠になる実データを確認した

【数字を出す】

  • チャネルを最低3区分(既存資産/広告/SEO等)に分けた
  • 単月ではなく3か月移動平均で見る運用にした
  • 商談化率と受注率を、チャネル別に把握している
  • LTV/CAC比と回収期間の両方を出した

【運用に反映する】

  • 目標CACから上限CPAを逆算し、広告の運用基準にした
  • 期待LTVの高低でセグメントを分け、上限を変えた
  • 効果が遅れるチャネルには別の回収期間を設定した
  • 月次の定例で、CACとLTVを毎回同じ定義で報告している

すべてを一度に整える必要はありません。最初にやるべきは、CACの分子の定義を決めて文書にすることと、LTVを粗利で出し直すことの2つです。この2つだけで、予算の議論はかなり具体的になります。

マーケティング顧問制度

CACとLTVの設計から、月次で見る数字の決め方までご一緒します
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LnXの見解

CACとLTVの話をすると、「うちはそこまでデータが揃っていないので」と言われることがあります。ですが、この2つは完璧なデータがなくても出せます。広告費と受注件数、平均単価と粗利率、そして顧客の取引履歴。これだけあれば、精度は粗くても判断に使える数字になります。出さないまま「CPAが高い/安い」を議論し続けるより、粗い数字でも一度置いてしまうほうが、はるかに前に進みます。

実際の支援でよく効くのが、顧客をLTVの高い層と低い層に分けることです。同じ広告アカウントの中でも、どのキーワードやどの広告グループから来た顧客が長く続いているかを見ると、はっきり差が出ます。そこに気づくと、獲得件数を追う運用から、獲得した顧客の質で入札を変える運用に切り替えられます。件数は減っても、粗利が増えるという結果になることが珍しくありません。

もう1つ、この2つの数字は経営会議で使えるのが利点です。「CPAが3,000円下がりました」は現場の報告ですが、「回収期間が9か月から6か月になったので、広告予算を月50万円増やせます」は経営の意思決定です。マーケティングの数字を、投資判断の言葉に翻訳できるかどうかで、社内で動かせる予算が変わります。LnXでは、社外のマーケティング責任者として、KPIの定義づくりから月次での振り返り、翌月の打ち手の優先順位づけまでをご一緒しています。数字の置き場所が決まっていない段階からのご相談も歓迎です。

よくある質問

Q CACとCPAはどう使い分ければよいですか?

CPAは広告の日々の運用調整に、CACは投資判断とチャネル比較に使います。CPAは問い合わせや資料請求といったコンバージョン1件あたりの広告費、CACは実際に取引が始まった顧客1人あたりの総コストです。商談化率と受注率を掛けると、目標CACから運用で使う上限CPAを逆算できます。両方を出しておくと、現場と経営の会話がつながります。

Q 創業間もなく、継続年数のデータがありません。どう計算すればよいですか?

実測できている期間で切って計算してください。データが1年分なら継続1年としてLTVを出し、「1年時点のLTV」と明記します。将来を楽観的に置いた数字で投資判断をするより、短い期間で保守的に出した数字のほうが安全です。データが貯まるごとに更新し、期間が伸びたらCACの上限も引き上げる、という運用にすると実態に追随できます。

Q LTV/CACは何倍あればよいのでしょうか?

3倍が目安と語られることが多い指標ですが、出所が明確な公的基準があるわけではありません。当社が実務で見ている目安としては、3倍を超えていれば投資を増やす判断がしやすく、1.5倍を下回るなら獲得の仕方を見直す水準です。ただし業種と粗利率で適正値は変わるため、他社の数値と比べるより、自社の前年同期との比較で見るほうが実用的です。

Q SEOやオウンドメディアのCACはどう計算しますか?

制作費と運用費、担当者の人件費を投下期間で按分し、その期間に増えた新規顧客で割ります。ただし成果が出るまでに時間がかかるため、単月で見ると必ず割高になります。広告とは別に「12か月で回収する」といった回収期間を設定し、その期間の累計で評価してください。記事が資産として残る点も、広告と同じ物差しでは測れない部分です。

Q CACに社長や兼任担当者の人件費も入れるべきですか?

獲得活動に使った時間分は入れるのが実態に近いです。兼任の場合は、月にどれくらいの時間をマーケティングと営業に使っているかをざっくり記録し、その割合で按分してください。精緻である必要はなく、毎月同じルールで計算することのほうが重要です。人件費を入れると、人手のかかるチャネルの本当のコストが見えるようになります。

Q 計算はどのくらいの頻度で更新すべきですか?

CACは月次、LTVは四半期ごとの更新で足ります。CACは広告費と受注件数から毎月出せますが、単月では振れやすいので3か月移動平均で見てください。LTVは継続率や単価の変化がゆっくり効いてくる数字なので、毎月更新しても判断は変わりません。四半期ごとに見直し、大きく動いたときに目標CACと上限CPAを修正する運用が現実的です。

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