この記事でわかること

  • 契約後に揉める論点が、契約書のどの条項に対応するか
  • 最低契約期間・中途解約・自動更新の実務上の落とし穴
  • 広告アカウントの名義と権限をどう設計すべきか
  • 手数料の算定基準で確認すべき「何に対する何%か」
  • 解約時にデータと制作物を引き継ぐための事前合意
  • そのまま送れる質問文テンプレート

契約で揉めるのは「書いていないこと」

広告運用代行のトラブルは、契約書に書かれた内容の解釈違いよりも、そもそも書かれていない事項をめぐって起きます。成果が出ているあいだは誰も条項を読み返しません。問題が表面化するのは、成果が伸び悩んだときと、解約を切り出したときの2回です。

この2つの局面で必ず論点になるのが、「どこまでが代理店の仕事だったのか」「アカウントとデータは誰のものか」の2点です。どちらも契約時に一文入れておけば防げるものですが、提案が魅力的な段階では話題に上りにくく、結果として抜け落ちます。

以下の9項目は、契約書または覚書のどこかに記載があるかという観点で確認してください。口頭で合意していても、担当者が変われば引き継がれません。

① 最低契約期間・中途解約・自動更新

最低契約期間は1ヶ月から6ヶ月まで会社によって幅があります。広告は配信データの蓄積によって精度が上がるため、拘束期間そのものには合理性があります。確認すべきは長さではなく、次の3点です。

  • 中途解約の可否と違約金:期間内に解約する場合、残月分の手数料が発生するのか、発生しないのか
  • 解約通知の期限:「解約希望月の前月末まで」が一般的ですが、2ヶ月前を求める契約もある
  • 自動更新の条件:申し出がなければ同条件で更新されるのか、更新時に条件を見直せるのか

特に見落とされやすいのが解約通知の期限です。3月末で切りたいと2月に伝えても、2ヶ月前通知の契約であれば4月分まで支払うことになります。

② 広告アカウントの名義と権限

実務上、最も影響が大きい項目です。広告アカウントが代理店名義の場合、解約時に配信実績・機械学習の蓄積・コンバージョン計測の設定を引き継げず、新しいアカウントで一から立ち上げ直すことになります。学習がリセットされる期間は成果が落ちるため、乗り換えのコストが跳ね上がります。

Google広告・Meta広告とも、広告主名義でアカウントを保有し、代理店に管理権限を付与する運用が可能です。契約書に「広告アカウントは甲(広告主)が保有し、乙(代理店)に管理者権限を付与する」旨を明記してください。

あわせて、Google アナリティクス・Google タグ マネージャー・Meta ビジネスマネージャーの管理者権限も自社に残す形が望ましいです。詳しくは広告アカウントは誰のものかで解説しています。

③ 手数料の算定基準

「広告費の20%」という表記でも、実際の請求額は算定の仕方で変わります。確認すべきは次の3点です。

  • 何に対する何%か:媒体費のみか、制作費を含むか
  • 最低手数料の有無:「広告費の20%、ただし最低月額10万円」という設定が一般的
  • 手数料に含まれる業務範囲:クリエイティブ制作・LP改善・計測実装が含まれるか、別途見積か

料率だけを比べると安く見える会社が、実費を積み上げた結果として総額で高くなることは珍しくありません。比較は必ず月額の総支払額で行ってください。相場感はリスティング広告運用代行の費用相場にまとめています。

④ 業務範囲の線引き

提案書には「戦略設計」「改善提案」「LP改善」といった言葉が並びますが、これらが具体的にどの作業を指すのかは会社ごとに異なります。次の作業について、代理店の業務か自社の対応かを一覧で確認してください。

  • バナー・動画クリエイティブの制作(本数の上限は何本か)
  • ランディングページの改修(提案までか、実装まで含むか)
  • コンバージョン計測タグの設置とテスト
  • 商品・サービス情報のフィード整備
  • 広告アカウントの審査対応・アカウント制限時の復旧対応

「改善提案」は提案までで、実装は広告主側という契約が多数派です。社内に実装できる人がいない場合、提案だけ受け取っても動かせません。

⑤ KPIと評価タイミングの合意

KPIを決めずに始めると、3ヶ月後に「成果が出ていない」「いや出ている」という水掛け論になります。契約時点で合意しておくのは、次の3つで足ります。

  • 主要指標:CPA・ROAS・獲得件数のどれを最上位に置くか
  • 評価のタイミング:何ヶ月目に何を見て判断するか
  • 目標に届かなかった場合の対応:方針の見直し方と、その協議の場をいつ持つか

広告のKPIを事業の制約条件から逆算する考え方は広告のKPIは「獲得数」でいいのかを参照してください。

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⑥ レポートの形式と頻度

レポートは「月1回提出」だけでは不十分です。次の3点を決めておくと、後から情報が足りずに困ることがなくなります。

  • 提供形式:PDFのみか、生データ(CSV・スプレッドシート)も受け取れるか
  • 粒度:キャンペーン単位か、広告グループ・クリエイティブ単位まで開示されるか
  • ミーティングの有無:レポート送付のみか、月次で説明の場があるか

生データを受け取れない契約だと、代理店を変更する際に過去の検証結果が持ち出せません。レポートで何を見るべきかは広告運用レポートでは何を見るべきかで整理しています。

⑦ 担当体制と変更時の扱い

提案の場に出てくる人と、実際に運用する人が違うケースはよくあります。契約前に次を確認してください。

  • 実際にアカウントを触るのは誰か(提案者本人か、別の運用担当者か)
  • 担当者が変更になる場合の事前通知の有無
  • 担当者不在時のバックアップ体制

担当者交代時に成果が落ちる事例は少なくありません。「担当変更の際は事前に通知し、引き継ぎ期間を設ける」旨を書面に残しておくと安全です。

⑧ 解約時のデータ移管手順

解約が決まってから交渉すると、条件面で不利になります。契約時に次の3点を合意しておいてください。

  • 広告アカウントの権限移譲:解約日から何営業日以内に権限を解除・移譲するか
  • 過去データの提供:配信実績データをどの形式で提供するか
  • 計測環境の引き継ぎ:GTMコンテナ・コンバージョンタグの設定情報を引き渡すか

乗り換えの進め方と空白期間のリスクは広告代理店を変えるべきタイミングにまとめています。

⑨ 制作物の権利帰属

バナー・動画・LPなど、代理店が制作した成果物の著作権が誰に帰属するかを確認します。権利が代理店に残る契約では、解約後にそのクリエイティブを使い続けられません。

「制作物の著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む)は、対価の支払いをもって甲に譲渡される」という趣旨の条項があるかを見てください。素材サイトの写真やフォントを使っている場合は、ライセンスが自社に引き継げるかも別途確認が必要です。

そのまま使える質問文

提案を受けた段階で、次の文面をメールで送るだけで9項目の大半が確認できます。

ご提案ありがとうございます。契約条件について、以下の点を確認させてください。

1. 最低契約期間と、期間内に解約する場合の条件
2. 解約を申し出る場合の通知期限
3. 広告アカウントの名義(当社名義での保有は可能か)
4. 手数料の算定基準(媒体費のみか、制作費を含むか。最低手数料の有無)
5. 手数料に含まれる業務と、別途費用が発生する業務の一覧
6. レポートの提供形式(生データの提供可否)と粒度
7. 実際に運用を担当される方と、担当変更時の通知有無
8. 解約時の広告アカウント権限移譲と過去データ提供の手順
9. 制作物(バナー・動画・LP)の著作権の帰属

回答が曖昧な項目は、その場で詰めるより、書面で残るやり取りにしておくほうが後で効きます。

LnXの見解

広告運用のご相談をいただくとき、前の代理店から乗り換えたいという方の多くが、成果そのものより「何をしてもらっているのか分からない」ことを理由に挙げます。これは代理店の怠慢というより、契約時に業務範囲とレポートの粒度を決めていなかったことに起因しているケースが大半です。

LnXでは月間広告費1,000万円を超えるリスティングアカウントの設計・運用を担当し、4ヶ月でLTVを1.6倍に改善した実績があります。またMeta広告では、人材紹介サービスの新卒集客において獲得単価8,000円を1ヶ月で実現しました。こうした規模のアカウントを扱ってきた経験から言えるのは、成果を左右するのは運用テクニックより意思決定に必要な情報が広告主側に届いているかだということです。

そのためLnXでは、広告アカウントはお客様名義での保有を前提とし、レポートは生データを含めてお渡ししています。契約が終わったあとに何も残らない状態を作らないことが、結果として長くお付き合いいただける形だと考えています。

よくある質問

Q 最低契約期間6ヶ月は長すぎませんか?

広告は配信データが溜まるほど判断精度が上がるため、一定の拘束期間には合理性があります。問題は長さそのものではなく、その期間に何を約束しているかが書かれていないことです。6ヶ月を受け入れるなら、月次で何を報告し、どの指標が何ヶ月目までに動かなければ方針を見直すのかをセットで文書化してください。期間だけが決まっていて中身の約束がない契約が、最も揉めます。

Q 広告アカウントは代理店名義でも問題ないでしょうか。

短期的には問題が出ませんが、解約時に配信実績・学習データ・コンバージョン計測の設定が引き継げず、ゼロから作り直しになるリスクがあります。Google広告・Meta広告とも広告主名義でアカウントを保有し、代理店に運用権限を付与する形が可能です。すでに代理店名義で運用している場合は、契約更新のタイミングで移管を交渉するのが現実的です。

Q 手数料20%は相場として妥当ですか?

広告費に対する20%は国内の一般的な水準です。ただし比較すべきは料率そのものではなく、その料率に何が含まれるかです。クリエイティブ制作、LP改善、計測環境の構築、レポート作成のどこまでが含まれるかは会社によって大きく異なります。料率が低くても実費が積み上がる契約は珍しくないため、月額の総支払額で比較してください。

Q 成果報酬型のほうが安全ではないですか?

リスクが小さく見えますが、成果の定義次第で逆に高くつきます。成果地点がフォーム送信なのか、有効商談なのか、受注なのかで単価は大きく変わります。またフォーム送信を成果とすると、質より件数を優先した運用に傾きやすくなります。成果報酬を選ぶ場合は、成果の定義と、質が伴わなかった場合の扱いを必ず契約書に書き込んでください。

Q 契約書の雛形は代理店側のものをそのまま使ってよいですか?

雛形自体は代理店側のもので構いませんが、本記事の9項目が書かれているかを確認し、抜けている項目は追記を依頼してください。特にアカウント名義・解約時の移管手順・制作物の権利の3点は、雛形に入っていないことが多く、かつ解約時に必ず問題になる箇所です。追記を断られる場合、その理由を確認する価値があります。

Q 契約前にどこまで具体的な提案を求めてよいものでしょうか。

アカウント構成案とKPIの考え方までは、契約前に提示してもらって差し支えありません。一方で、詳細なキーワード設計やクリエイティブ案は競合調査と工数を伴うため、契約後になるのが一般的です。線引きに迷ったら「この提案は契約前にどこまで具体化できますか」と直接聞くのが早く、その回答の仕方でも相手の姿勢が見えます。

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