この記事でわかること

  • 「獲得数を増やす」がKPIとして機能しない事業の特徴
  • 自社のボトルネックを特定する簡単な質問
  • 制約の型ごとに変わる最適なKPI
  • 実案件でどう判断したかの具体例
  • 社内と代理店で評価軸を揃える方法
  • KPIを見直すべきタイミング

「獲得数を増やす」の落とし穴

広告のご相談をいただくとき、目標としてほぼ必ず出てくるのが「問い合わせをもっと増やしたい」です。自然な要望ですし、多くの場合それで問題ありません。ただし、事業によってはこの目標設定自体が成果を頭打ちにします。

考えてみてください。問い合わせが今の2倍来たとき、御社では何が起きるでしょうか。全部に対応できて売上が2倍になるなら、獲得数を増やすのは正しい方向です。しかし対応しきれずに返信が遅れ、商談化率が落ちるなら、増えた問い合わせの多くは売上になりません。

件数を増やしても売上が増えない構造:対応できる件数に上限がある事業では、問い合わせを増やしても処理能力を超えた分は取りこぼしになります。それどころか、対応の遅れによって既存の獲得の質まで下がることがあります。この状態で広告費を増やすのは、詰まっている配管に水量を足すのと同じです。

本当に問うべきこと

広告のKPIを決める前に確認すべきなのは、「事業のどこが詰まっているか」です。詰まっている場所が広告の手前(集客不足)なら獲得数を増やす。詰まっている場所が広告の後ろ(対応能力)なら、同じ件数の中身を良くする。この判断が、広告の設計をまるごと変えます。

ボトルネックを特定する

難しい分析は要りません。関係者に次の質問をするだけで、かなりの部分が見えます。

1

「問い合わせが今の2倍来たら何が起きますか」

営業や現場の担当者に聞いてください。「対応しきれない」と返ってくるなら、そこがボトルネックです。「売上が2倍になる」と返ってくるなら、獲得数を増やす余地があります。この一問で、KPIの方向はほぼ決まります。

経営者ではなく、実際に対応する人に聞く
2

「いま断っている案件はありますか」

受注を断っている、対応を後回しにしている案件があるなら、すでに供給側が上限に達しているサインです。この状態で獲得数を増やしても、断る件数が増えるだけになります。

断っている案件があるのに広告費を増やすのは、費用の無駄になりやすい
3

「獲得によって、後の売上に差がありますか」

問い合わせの種類や流入元によって、受注率や単価、継続期間に差があるか。差があるなら、その差を広告の設計に反映できます。差がないなら、獲得数の最大化に集中したほうがシンプルです。

営業側に「取りたい問い合わせ」「取りたくない問い合わせ」を聞く
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「対応能力はすぐ増やせますか」

人を採用すれば解決するのか、設備や資格が必要で短期には増やせないのか。短期に増やせない制約こそが、広告のKPIを規定します。採用でいずれ解消するなら、その時期に合わせてKPIを切り替える計画も立てられます。

制約が解消する時期が読めるなら、KPIの移行計画も作れる

制約の型別に見るKPI

ボトルネックの場所によって、広告で追うべき指標は変わります。

制約の型 該当する事業の例 適したKPI 広告設計の方向
対応人員に上限 人材紹介、士業、コンサル、施工 1獲得あたりの価値 価値の高い獲得に投資を寄せる
在庫・席数に上限 飲食、宿泊、イベント、物販 稼働率・回転率 埋まらない枠に絞って配信する
商圏に上限 店舗、訪問サービス 商圏内での獲得数 地域の除外を厳密にする
供給に余裕あり SaaS、EC、デジタル商材 獲得数・獲得単価 件数の最大化に集中する
粗利率が低い 薄利多売の物販 ROAS・利益額 値ベースの入札を検討する
季節に偏りがある 受験、就活、季節商材 期間内の総獲得 需要の山に予算を寄せる

同じ「広告運用」でも設計が変わる:対応人員に上限がある事業と、供給に余裕がある事業では、最適なアカウント構成も、目標CPAの置き方も、評価の仕方も別物になります。「広告運用のベストプラクティス」と呼ばれるものの多くは、後者を前提にしています。自社がどちらなのかを先に確認してください。

実案件での判断

実際に、この判断が設計を変えた事例をご紹介します。

ケース1:対応人員の制約からLTV最大化へ

上場人材会社(従業員4,000名/月額広告費1,000万円規模)のリスティング広告をご支援した案件です。担当するキャリアアドバイザーの数が限られているという事業構造があり、獲得数を増やしても対応しきれない状態でした。

そこでKPIを「獲得数の最大化」ではなく「1獲得あたりの価値の最大化」に設定。広告グループを期待LTVの高・中・低で再編成し、グループごとに目標CPAを個別に設定することで、価値の高い獲得には高い単価を許容し、低い獲得は費用を抑える構成にしました。結果として4ヶ月でLTV1.6倍を達成しています。(事例の詳細はこちら

ケース2:ターゲットの検索行動から媒体を選ぶ

新卒就活支援サービス(従業員10名規模)のMeta広告をご支援した案件です。ここでの判断は媒体選定でした。新卒層である大学生は、中途転職層と比べて「就活エージェントを探す」という顕在検索が少ないため、リスティング広告ではCPAが高くなりやすい構造があります。

そこでリスティングではなくMeta広告を優先。年齢・属性でのターゲティング精度を活かして18〜24歳に絞り、就活の季節性に合わせた訴求を設計しました。あわせてLPの入力項目と導線も改善し、1ヶ月でCPA8,000円を達成しています。(事例の詳細はこちら

2つの事例に共通すること:どちらも判断の起点は広告の技術論ではなく、事業の構造とターゲットの行動でした。前者は「人員に上限がある」、後者は「顕在検索が少ない層である」。この前提を押さえずに管理画面だけを見ていると、どちらの判断にも到達しません。

社内と代理店で評価軸を揃える

KPIを変えるなら、評価する側の合意を先に取っておく必要があります。ここが揃っていないと、良い設計をしても社内で「悪化した」と判断されます。

KPI合意チェックリスト

【社内で決めること】

  • 事業のボトルネックがどこかを関係者で確認した
  • 広告で最大化すべきものを一文で言える
  • CPAが上がっても問題ないケースを定義した
  • 成果を判断する期間を決めた

【代理店と共有すること】

  • 事業の制約条件を説明した
  • 獲得の種類ごとの価値の差を共有した
  • レポートで見る指標を合意した
  • 営業側の数字(商談化率・受注率)を渡している

【運用に組み込むこと】

  • 問い合わせの種別を記録している
  • 受注データと広告データを突き合わせている
  • 月次でCPAだけでなく利益貢献を見ている
  • 対応能力の変化を代理店に伝える経路がある

KPIを見直すタイミング

KPIは頻繁に変えるものではありませんが、前提が変わったときは見直しが必要です。

  • 人員を増やした・減らした——対応能力の上限が動く
  • 商圏や対応エリアを広げた——供給側の制約が緩む
  • 商材の価格や粗利構造を変えた——許容できるCPAが変わる
  • 受注データが溜まってきた——獲得の価値をより正確に評価できる
  • 季節の山を越えた——需要の前提が変わる

特に見落とされやすいのが最後から2つ目です。運用を続けるほど、どの獲得が価値を生んだかのデータは増えます。最初は粗い分類でも、実績が溜まれば精度を上げられます。KPIの見直しは、後退ではなく前進として計画に入れておいてください。

Web広告運用代行

KPI設計から関与する広告運用をします

「何を増やせば事業が伸びるのか」は、事業の制約条件によって変わります。LnXでは配信の設定に入る前に事業構造をうかがい、広告で最大化すべきものを一緒に定義したうえでご支援します。まずは現状をお聞かせください。

広告運用代行の詳細を見る

LnXの見解

広告運用会社の多くは「運用はできる」のですが、「事業を理解してKPI設計から関与できる」会社は少ないというのが、私たちが業界を見ていて感じるところです。配信設定や入札調整、クリエイティブの入れ替えといった作業は、今後AIによる代替が進んでいきます。そのときに残る価値は、事業構造を理解して、それに即した施策を設計できることだと考えています。

実際、ご紹介した2つの事例で判断の分かれ目になったのは、いずれも広告の技術論ではありませんでした。「キャリアアドバイザーの数が限られている」「新卒層は顕在検索が少ない」——どちらも事業とターゲットの理解から出てきた判断です。管理画面の数字だけを見ていても、こうした結論には到達しません。

だから私たちは、アカウントを拝見する前に必ず事業のことをうかがいます。どこが詰まっているのか、何を増やせば利益が増えるのか。ここが分からないまま「CPAを下げます」と言うのは、実は何も約束していないのと同じです。広告は事業の一部分でしかないので、その一部分だけを最適化しても全体が伸びるとは限りません。KPIの置き方から一緒に考えたいというご相談は、むしろ歓迎しています。

よくある質問

Q KPIを獲得数から変えると、広告の成果は悪化して見えませんか?

見た目のCPAは上がることがあります。1件あたりの価値が高い獲得を狙うと、そのぶん単価も上がるためです。ここで重要なのが、評価軸を先に合意しておくことです。CPAだけで評価する体制のまま設計を変えると、社内で「悪化した」と判断されてしまいます。何を成果と見なすかを、着手前に関係者で揃えてください。

Q 自社のボトルネックがどこにあるか、どう調べればよいですか?

「問い合わせが今の2倍来たら何が起きるか」を関係者に聞いてみてください。対応しきれないと答えが返ってくるなら、その対応能力がボトルネックです。売上が2倍になると返ってくるなら、獲得数を増やす余地があります。在庫、施工枠、席数、担当者の稼働など、事業によって詰まる場所は違います。

Q 広告代理店にKPIの話までしてもらえるものですか?

会社によります。配信の設定と改善を業務範囲と定義している場合、事業のKPIまで踏み込まないこともあります。ただし、獲得数を増やすのか1件あたりの価値を上げるのかで最適な設計は変わるため、この前提が共有されていないと成果の評価も噛み合いません。初回の打ち合わせで、事業の制約について質問があるかどうかは、その会社の関与範囲を測る材料になります。

Q LTVを重視すると、獲得数が減って売上も落ちませんか?

対応能力に上限がある事業では、獲得数が減っても売上は落ちにくくなります。処理できる件数が決まっている以上、その枠をより価値の高い獲得で埋めるほうが売上は増えるからです。逆に対応能力に余裕がある事業では、件数を絞ると単純に売上機会を失います。この判断はボトルネックの所在によって変わるため、一般解はありません。

Q KPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

日常的に変える性質のものではありませんが、事業側の状況が変わったときは見直しが必要です。人員を増やした、対応可能なエリアを広げた、商材の価格を変えた、粗利構造が変わった——こうした変化はボトルネックの位置を動かします。少なくとも期の区切りごとに、前提が変わっていないかを確認してください。

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