この記事でわかること
- 提案書と費用だけでは判断できない運用体制の実態
- 担当者1人あたりのアカウント数が成果に与える影響
- 営業と運用が分離している組織で起きる情報のロス
- ダブルチェック・レビュー体制の有無をどう確認するか
- 担当者交代で成果が落ちる仕組みと、事前に防ぐ方法
- 商談でそのまま使える5つの質問と、回答の読み解き方
提案書では分からないこと
広告代理店を比較するとき、多くの企業が見るのは提案内容と費用です。しかしこの2つは、実際に契約したあとの成果とあまり相関しません。提案書は各社とも見栄えのする形に整えてきますし、費用は相場からそう外れないためです。
実際に差がつくのは、そのアカウントに毎月どれだけの時間と、どのレベルの人が投下されるかです。ここは提案書に書かれません。書かれないからこそ、こちらから聞く必要があります。
本記事では、体制を確認するための具体的な観点と、商談でそのまま使える質問を整理します。提案書の読み解き方については広告代理店の提案書とレポートはここを見るを参照してください。
担当者1人あたりの担当社数
広告運用者が同時に担当するアカウント数は、会社と単価帯によって大きく変わります。目安は次のとおりです。
| 担当社数 | 1社あたりの月間工数 | できること |
|---|---|---|
| 3〜5社 | 20〜30時間 | 戦略設計・クリエイティブ検証・LP改善提案まで踏み込める |
| 8〜12社 | 8〜15時間 | 入稿・予算調整・月次レポートと、月数回の改善施策 |
| 20社以上 | 3〜5時間 | 異常値の監視とレポート作成が中心。踏み込んだ改善は困難 |
どれが正解ということではなく、自社が支払う手数料と期待する仕事量が釣り合っているかが論点です。月10万円の手数料で20〜30時間の稼働を期待するのは、時給換算すると現実的ではありません。
逆に、手数料が高いにもかかわらず担当社数が多い場合は、その差額がどこに使われているかを確認する価値があります。
営業と運用の分離
ある程度の規模の代理店では、営業担当と運用担当が分かれています。この体制自体は一般的ですが、次の点で情報のロスが起きます。
- 商談で伝えた事業の背景や制約が、運用担当まで正確に届かない
- 運用担当が持っている懸念が、営業のフィルターを通ることで薄まる
- 「なぜその設定にしたのか」の説明が、又聞きになる
広告のKPIは事業の制約条件から決まるべきものですが(広告のKPIは「獲得数」でいいのか)、その制約が運用担当に伝わっていなければ、数字だけを追う運用になります。
分離体制そのものを避ける必要はありません。月1回でも運用担当者が同席する場があるかを確認してください。
レビュー体制の有無
1人の運用者だけでアカウントを見ている場合、その人の判断の癖がそのまま成果に反映されます。組織としてレビューが入っているかは、次のように確認できます。
- アカウント設計時に、他のメンバーがチェックする工程があるか
- 大きな設定変更(キャンペーン構成の変更、入札戦略の切り替え)に承認プロセスがあるか
- 四半期など定期的に、担当外のメンバーがアカウントを点検する機会があるか
個人や少人数の会社ではレビュー体制を持てないこともあります。その場合は、変更の意図を都度こちらに説明する運用になっているかで代替できます。説明できる状態を保つこと自体が、セルフレビューとして機能するためです。
担当者交代のリスク
広告運用の成果が落ちる原因として、実務上よく見るのが担当者の交代です。落ちる理由は能力差だけではありません。
- 設定の意図が引き継がれない:「なぜこのキーワードを除外したか」が分からず、新任者が戻してしまう
- 検証中の施策が中断される:効果測定の途中で方針が変わり、データが無駄になる
- 過去の失敗が繰り返される:一度試して駄目だった訴求を、知らずに再度試す
これらは、変更履歴と検証結果が文書として残っていれば防げます。契約時に「担当変更の際は事前に通知し、引き継ぎ期間を設ける」旨を書面に残しておくことを推奨します。
誰がアカウントを触るのか
提案の場に出てくる人と、実際に日々アカウントを操作する人が違うケースは珍しくありません。確認すべきは次の3点です。
- 提案者本人が運用するのか、別の担当者に引き渡されるのか
- その担当者の経験年数と、自社と近い規模・業種の運用経験
- 担当者が不在のとき、誰が代わりに見るのか
「同業種の実績があるか」を重視しすぎる必要はありませんが(広告代理店に「同業種の実績」を求めるべきか)、予算規模の経験は確認する価値があります。月50万円のアカウントと月1,000万円のアカウントでは、運用の重心が変わるためです。
商談で使う5つの質問
次の5問を聞くだけで、体制のかなりの部分が見えます。
- 「実際に運用を担当されるのはどなたですか。本日ご提案いただいた方と同じでしょうか」
- 「運用担当の方は、おおよそ何社くらいを並行して担当されていますか」
- 「弊社のアカウントには、月あたりどのくらいの時間を想定されていますか」
- 「アカウント設計や大きな変更の際、社内でレビューする仕組みはありますか」
- 「担当者が変更になる場合、事前にご連絡いただけますか。また引き継ぎはどのような形になりますか」
すべて業務上の当然の確認であり、聞いて問題になる質問ではありません。
回答の読み解き方
数字そのものより、答え方に体制が表れます。
| 回答の傾向 | 読み取れること |
|---|---|
| 即座に具体的な数字が返ってくる | 工数を管理しながら受注している。期待値の擦り合わせがしやすい |
| 「案件によります」で終わる | 工数の設計をしていない可能性。契約後の稼働がぶれやすい |
| 数字は出るが根拠が曖昧 | 営業側の希望値の可能性。運用担当への確認を依頼する |
| 質問を歓迎し、体制図まで出してくる | 体制を強みとして設計している |
回答内容を契約書や覚書に落とし込めるかどうかも、あわせて確認してください。口頭の合意は担当者が変われば消えます。
LnXの見解
代理店を乗り換えたいというご相談で最も多いのは、成果が出ていないことそのものより、「何をしてもらっているのか分からない」という状態です。そしてその背景を伺うと、多くの場合、契約時に体制の話をしていません。
LnXは代表が直接、戦略設計から運用まで担当する体制を取っています。これは大手のような組織的なバックアップがない代わりに、商談で話した内容と実際の運用のあいだに人が挟まらないという構造です。月間広告費1,000万円超のリスティングアカウントでLTVを1.6倍にした案件も、Meta広告で獲得単価8,000円を1ヶ月で実現した案件も、この形で担当しました。
どの体制が優れているという話ではありません。重要なのは、自社が支払う金額に対して誰がどれだけ時間を使うのかが、契約前に見えているかです。ここが見えていれば、成果が想定を下回ったときも、原因を体制側に求めるのか施策側に求めるのかを切り分けられます。
よくある質問
Q 担当者の掛け持ち数を聞くのは失礼にあたりませんか?
業務上の当然の確認事項であり、失礼にはあたりません。むしろ答えられない、あるいは答えを渋る場合のほうが問題です。聞き方としては「御社の運用担当者は、おおよそ何社くらいを並行して担当されていますか」という形が自然です。数字そのものより、即答できるかどうかに体制の管理状況が表れます。
Q 大手代理店と中小・個人ではどちらが安心ですか?
規模と品質は直結しません。大手は体制が整っている一方、少額のアカウントは経験の浅い担当者に割り当てられることがあります。中小・個人は代表クラスが直接運用することが多い反面、その方が体調を崩した際のバックアップがありません。どちらを選ぶかより、自社のアカウントを誰がどれだけの時間で見るのかを個別に確認するほうが実質的です。
Q 担当者が変わったあと成果が落ちました。取り戻せますか?
多くの場合は取り戻せますが、前任者が何を根拠に設定したのかを再構築する時間が必要です。まず過去のレポートと変更履歴を取り寄せ、どのキャンペーンがどういう意図で組まれていたかを新担当者と一緒に確認してください。この作業を飛ばして新任者の判断だけで組み替えると、過去の検証結果が無駄になります。
Q 運用担当者と直接話せない契約は問題でしょうか。
即座に問題とは言えませんが、確認は必要です。窓口を営業に一本化する体制自体は珍しくありません。重要なのは、こちらの質問に対して運用担当者の見解がそのまま返ってくるかです。営業の解釈が挟まると、判断の根拠が曖昧になります。月1回でも運用担当者が同席する場を設けられるか確認してください。
Q 少額予算だと手を抜かれるのではないかと不安です。
手数料が運用工数を規定する以上、予算規模で投下時間が変わるのは構造的な事実です。これを前提としたうえで、少額でも成立する契約設計を選ぶほうが現実的です。具体的には、月次の作業内容を具体的に定義してもらい、その範囲で何ができるかを合意する形にします。曖昧な「フル運用」より、範囲が限定されていても明示されている契約のほうが期待値がずれません。
Q 体制について聞いたら嫌な顔をされました。どう判断すべきでしょうか。
その反応自体が判断材料です。運用体制は成果に直結する要素であり、質問されることを想定していない会社は、体制を強みとして設計していない可能性があります。ただし、聞き方が詰問調になっていなかったかは振り返る価値があります。「長くお付き合いしたいので確認させてください」という前置きがあると、受け取られ方は変わります。