この記事でわかること
- 定例が報告会で終わる4つの構造的な原因と、それぞれの直し方
- 60分の標準アジェンダ(数字10分・要因分解15分・意思決定20分・実行計画9分)
- 毎月固定して見る指標の4階層と、期間比較の型の決め方
- 決定を「配分を変える/やめる/検証する」の3型に絞る進め方
- 外注先が複数いる会社で、予算配分を決める場が抜け落ちる理由と二層構造の設計
報告会になっている定例は、何も決まらない
マーケティングの月次定例に呼ばれると、かなりの割合で同じ光景を見ます。担当者が先月の数字を読み上げ、全員が黙って聞き、最後に「引き続きよろしくお願いします」で終わる会議です。60分使って、決まったことがゼロという状態が毎月繰り返されます。
これは担当者の能力の問題ではありません。会議の設計が「報告」を目的にしているからです。数字を共有することと、次の打ち手を決めることは別の作業であり、後者には別の準備と別の進め方が必要です。
数字を会議の場で初めて見る
レポートが当日に配られると、参加者は理解するだけで時間を使い切ります。数字の説明に30分かかった時点で、その会議で意思決定する時間は残っていません。資料は前日までに配り、会議は「読んだ前提」で始めるだけで、使える時間が倍になります。
資料は前営業日までに共有し、会議では数字を読み上げない見る指標が毎月変わる
先月はCPA、今月はセッション数、来月はフォロワー数、という具合に指標が入れ替わると、良くなったのか悪くなったのかが誰にも分かりません。指標が固定されていない会議は、都合のいい数字を選んで報告する場になります。悪意がなくても、そうなります。
議題が「共有事項」だけで構成されている
アジェンダに並ぶのが共有事項ばかりで、「決めること」が1つも書かれていない会議は、構造的に何も決まりません。アジェンダに「本日決めること」という欄を作り、そこを空欄のまま会議を始めないのが最低条件です。
決定に担当者と期限が付かない
「LPを改善しましょう」で終わると、翌月の定例でまた同じ話が出ます。決定事項は「誰が・何を・いつまでに」の3点セットで記録しないと、決めたことになりません。会議の最後の5分をこの確認に使ってください。
担当者名が入らない決定は、次月に持ち越される60分の標準アジェンダ
月次定例の時間配分は、最初に型を決めてしまうのが確実です。当社が実務で使っている配分は次の形です。会社の状況によって多少前後しますが、「決める時間を必ず確保する」という構造は共通です。
| 時間 | パート | やること | やらないこと |
|---|---|---|---|
| 0-10分 | 数字の確認 | 固定指標の推移を見て、想定と違う箇所だけを指摘する | 全指標を読み上げる。資料の説明 |
| 10-25分 | 差分の要因分解 | 想定と違った指標について、原因の仮説を2〜3個出す | 原因が特定できるまで議論を続ける |
| 25-45分 | 意思決定 | 翌月の打ち手を3つ以内に絞り、やめる施策も決める | アイデアを出し合うだけで終わる |
| 45-55分 | 実行計画 | 決めた打ち手に担当者・期限・完了条件を付ける | 「次回までに検討」で流す |
| 55-60分 | 確認 | 決定事項を読み上げて、認識のズレを潰す | 新しい議題を持ち出す |
この配分でいちばん重要なのは、最初の10分を「読み上げ」に使わないことです。資料を前日に配り、会議の冒頭で「想定と違った指標はどれですか」と問いかけるところから始めると、それだけで議論の質が変わります。読み上げる文化が残っている会社では、まずここだけ変えてみてください。
60分が取れない場合
30分しか確保できない場合は、要因分解を削って「数字の確認5分・意思決定15分・実行計画10分」にします。削るのは要因分解であって、意思決定と実行計画ではありません。原因の特定は会議の外でもできますが、決定は人が揃っている場でしかできないからです。
最初の10分で見る数字を固定する
毎回同じ指標を、同じ並びで、同じ期間比較で見る。これだけで会議の生産性は大きく変わります。指標の構成は、事業の型によって変わります。下は代表的な2パターンです。
| 階層 | BtoB/問い合わせ型の事業 | 店舗・EC/来店購入型の事業 |
|---|---|---|
| 事業成果 | 受注数・受注金額・商談化率 | 売上・客数・客単価 |
| 中間成果 | 問い合わせ数・獲得単価・リードの質 | 予約数・来店数・カート投入数 |
| 流入 | チャネル別のセッション・広告の表示回数とクリック | チャネル別のセッション・MEOの表示回数 |
| 投資 | チャネル別の費用と、費用対効果 | 同左 |
期間比較の型も決めておく
前月比だけを見ていると、季節性のある商材では毎月「良くなった/悪くなった」の解釈がぶれます。前月比・前年同月比・直近3ヶ月の移動平均の3つを、最初から並べておくのが安全です。どれか1つだけを見て判断する会議は、季節要因に振り回されます。
指標を固定するときの注意点は、「途中で追加したくなっても、その場では追加しない」ことです。気になる数字が出てきたら、まず単発の調査として別途見る。それが3ヶ月続けて意思決定に効いたら、固定指標に昇格させる。この手順を踏まないと、指標がどんどん増えて最初の10分が20分になります。
決めることを3つに絞る
会議の中心は意思決定パートです。ここで扱う議題は、「決まれば来月の動きが変わるもの」に限定してください。候補が多いときは、次の3つの型に振り分けると整理できます。
配分を変える決定
予算・人の時間・優先順位をどこに寄せるか。「広告費を10万円増やす/SNSの投稿本数を半分にしてLP改善に回す」といった、資源の移動を伴う決定です。効果が大きいぶん、決めないまま先送りされやすい議題でもあります。
やめる決定
成果が出ていない施策を止めるか、続けるか。やめる決定は、意識して議題に上げないと永遠に出てきません。「この施策は何をもって撤退と判断するか」を開始時に決めておくと、この議題が自動的に上がってきます。
施策を始めるときに、撤退条件をセットで決めておく検証する決定
判断材料が足りないときに、「何を確かめるか」を決めます。ここで大事なのは、検証にも期限と完了条件を付けることです。「調べておきます」で終わると、翌月も同じ議論になります。「◯日までに、◯◯の数字を出す」まで落としてください。
3つを超える決定を1回の会議で扱うと、どれも実行されません。人も時間も限られている中小企業では、月に3つの打ち手を確実に回すほうが、10個の施策を中途半端に進めるより結果が出ます。優先順位を付けられないときは、「来月の売上にいちばん近いのはどれか」で並べてください。
決定事項に「誰が・いつまでに」を付ける
実行計画パートでやることは1つです。決まった打ち手を、次の4項目に分解します。
| 項目 | 書き方 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 何を | 動詞で終わる形にする(「LPのファーストビューを差し替える」) | 「LP改善」のように名詞で止める |
| 誰が | 個人名。組織名や「チーム」にしない | 「マーケ側で」「代理店さんに」 |
| いつまでに | 日付。「来月中」は使わない | 「次回定例までに」 |
| 完了条件 | 何がどうなっていれば完了か | 完了条件を書かない |
外注先が絡む決定は、社内側の担当者も決める
「代理店さんに新しいクリエイティブを作ってもらう」という決定には、素材や情報を渡す社内側の担当者が必ず必要です。ここが空欄だと、外注先が着手できないまま1ヶ月が過ぎます。実行計画には、外注先の担当と社内の担当を両方書いてください。
翌月の会議は、前月の決定事項の進捗確認から始めます。完了・未完了を1行ずつ確認するだけで3分程度です。この3分があるかないかで、決定が実行される率がはっきり変わります。未完了だった場合は、理由を責めるのではなく「何が詰まったか」を聞いて、次の決定の材料にしてください。
外注先が同席する定例で起きること
広告代理店やSNS運用代行が定例に同席する場合、会議の性質が変わります。外注先は自分の担当領域の報告に時間を使い、領域をまたぐ判断は誰もしないまま終わる、という状態になりやすいためです。
チャネル別に会議が分かれている会社の問題
広告の定例、SNSの定例、制作会社との定例が別々に走っていると、次のことが起きます。
- 予算の配分を決める場がない——各社が自分の領域の増額を提案し、全体最適の判断が誰にも回ってこない。
- 同じ数字を別の定義で見ている——広告側のCV数とGA4の数字が違うまま、それぞれの会議で報告される。
- 施策がつながらない——広告のクリエイティブとLPの訴求、SNSの発信内容がそれぞれ別の方向を向く。
- 経営側が全体像を持てない——会議に出るたびに部分最適の話を聞き、投資判断ができない。
外注先が複数いる場合は、チャネル別の定例とは別に「全体の定例」を月1回置いてください。参加者は経営者・社内担当者・全体を見る立場の人です。ここで予算配分と優先順位を決め、各チャネルの定例は決まった方針の実行確認に徹する。この二層構造にすると、判断が滞りません。
外注先に出してもらう報告の様式を、発注側が決める
各社がそれぞれの様式でレポートを出してくると、横に並べて比較できません。指標の定義・期間・並び順を発注側が指定し、全社に同じ形式で出させてください。様式を揃えるだけで、どのチャネルにどれだけ投資していて、何が返ってきているかが一目で分かるようになります。
月次・週次・四半期の役割分担
すべてを月次定例で扱おうとすると時間が足りません。会議の周期ごとに扱う議題を分けると、それぞれが短くなります。
| 周期 | 扱う議題 | 参加者 | 目安時間 |
|---|---|---|---|
| 週次 | 進行中タスクの詰まり、異常値の検知、クリエイティブの承認 | 実務担当者のみ | 15〜30分 |
| 月次 | 数字の振り返り、翌月の打ち手の決定、予算の微調整 | 経営者・社内担当者・(必要なら外注先) | 60分 |
| 四半期 | チャネル構成の見直し、撤退判断、次四半期の予算枠 | 経営者・責任者 | 90〜120分 |
この分け方でよくある誤解は、「週次をやらないと月次が重くなる」というものです。実際には逆で、週次で異常値を捕まえておかないと、月次で1ヶ月ぶんの手遅れをまとめて議論することになります。週次は15分で構いません。数字を見て、止まっているタスクを1つずつ潰すだけです。
そのまま使えるアジェンダ雛形
月次マーケティング定例 アジェンダ(60分)
【事前準備|前営業日までに共有】
- 固定指標のレポート(前月比・前年同月比・直近3ヶ月移動平均)
- 前回の決定事項一覧と、その完了/未完了
- 本日決めたいこと(3つ以内)を箇条書きで提示
【00:00-00:03|前回決定事項の確認】
- 1件ずつ完了/未完了を確認する
- 未完了は「何が詰まったか」だけ聞き、対策は後半で扱う
【00:03-00:13|数字の確認】
- 読み上げはしない。想定と違った指標だけを指摘する
- 事業成果 → 中間成果 → 流入 → 投資の順で見る
【00:13-00:28|差分の要因分解】
- 想定と違った指標について、仮説を2〜3個出す
- 特定できない場合は「検証する決定」に回す
【00:28-00:48|意思決定(3つ以内)】
- 配分を変える決定/やめる決定/検証する決定に振り分ける
- 4つ目以降は次月または四半期会議に送る
【00:48-00:57|実行計画】
- 何を(動詞で終わる形)/誰が(個人名)/いつまでに(日付)/完了条件
- 外注先が絡む決定は、社内側の担当者も記載する
【00:57-01:00|確認】
- 決定事項を読み上げ、認識のズレを潰す
- 新しい議題は出さない。次回のアジェンダに積む
会議の質は、実行された決定の数で測る
定例がうまく回っているかどうかを判断する指標は1つで足ります。「先月決めたことのうち、期限内に完了した割合」です。これが半分を切っている場合は、決めている数が多すぎるか、担当者と期限の付け方が甘いかのどちらかです。会議の進め方を変えるより、決定を3つ以内に絞るほうが先に効きます。
LnXの見解
マーケティングの定例がうまくいかない理由の大半は、参加者の能力でも施策の選択でもなく、「決める時間が会議の設計に入っていない」という一点にあります。数字を共有するだけなら資料の配布で済みます。人を集めてまで確保した60分は、決定に使うべき時間です。資料を前日に配って読み上げをやめる。それだけで使える時間が倍になる会社を、これまで何度も見てきました。
もうひとつ強調しておきたいのは、外注先が複数いる会社ほど「全体を決める場」が抜け落ちやすいということです。広告は代理店、SNSは運用会社、サイトは制作会社という体制自体は悪くありません。問題は、各社がそれぞれの定例で自分の領域の話をして、予算配分と優先順位を決める場が存在しないことです。経営者が3つの会議に出て部分最適の報告を聞き続ける状態では、投資判断ができません。
LnXのマーケティング顧問制度では、まさにこの「全体を決める場」を担っています。月1回または月2回の定例で、チャネルをまたいだ数字を同じ様式で見て、翌月の打ち手と予算配分を決めるところまでを一緒にやります。マーケティング会社の代表が直接入るため、施策の判断を担当者に引き継ぐことはありません。定例が報告会になっていて何も決まらない、外注先が増えて全体像が見えない、という状態であれば、いまの会議の進め方を見せていただくところからご相談いただけます。
よくある質問
Q 月次定例は何分くらいが適切ですか?
60分を基本に置くのが現実的です。内訳は、前回の決定事項の確認3分、数字の確認10分、差分の要因分解15分、意思決定20分、実行計画9分、最終確認3分という配分です。30分しか取れない場合は要因分解を削り、数字の確認5分・意思決定15分・実行計画10分にしてください。削るのは要因分解であって、意思決定と実行計画ではありません。原因の特定は会議の外でもできますが、決定は人が揃っている場でしかできないからです。
Q レポートは会議の場で説明したほうが親切ではないですか?
説明が必要な資料であること自体が問題だと考えたほうが早く進みます。レポートは前営業日までに共有し、会議は読んだ前提で始めてください。冒頭の問いかけを「今月の数字を説明します」ではなく「想定と違った指標はどれですか」に変えるだけで、議論の入り方が変わります。読み手が理解できない資料なら、資料の様式を直す議題として別途扱うのが筋です。
Q 見る指標はいくつくらいに絞るべきですか?
事業成果・中間成果・流入・投資の4階層で、各階層2〜4個、合計10〜15個が目安です。重要なのは数より固定することで、毎月同じ指標を同じ並びで同じ期間比較で見る形にしてください。途中で気になる数字が出てきても、その場で固定指標に加えないことをおすすめします。まず単発の調査として見て、3ヶ月続けて意思決定に効いたら昇格させる、という手順にすると増えすぎを防げます。
Q 決めることを3つに絞ると、施策が進まなくないですか?
逆になります。人も時間も限られている中で10個の議題を扱うと、どれも中途半端に終わり、翌月に同じ議論が戻ってきます。月3つの打ち手を確実に実行するほうが、半年後の到達点は高くなります。優先順位を付けられないときは、「来月の売上にいちばん近いのはどれか」という基準で並べてください。それでも絞れない場合は、四半期の会議で扱う議題として送るのが現実的です。
Q 外注先を定例に同席させるべきですか?
チャネル別の実行確認には同席してもらい、予算配分と優先順位を決める全体の定例とは分けることをおすすめします。外注先が同席する会議は自分の担当領域の報告に時間が使われやすく、領域をまたぐ判断が誰にも回ってこない状態になりがちです。全体の定例は経営者・社内担当者・全体を見る立場の人だけで行い、そこで決めた方針をチャネル別の定例に下ろす二層構造にすると、判断が滞りません。
Q 定例がうまく機能しているかは、どう判断すればいいですか?
「先月決めたことのうち、期限内に完了した割合」を見るのがもっとも簡単です。これが半分を切っている場合、決めている数が多すぎるか、担当者と期限の付け方が甘いかのどちらかです。会議の進め方を変えるより、決定を3つ以内に絞って、それぞれに個人名と日付を付けるほうが先に効きます。未完了だった項目は、理由を責めるのではなく何が詰まったかを聞いて、次の決定の材料にしてください。
Q 社内にマーケティングの責任者がいない場合、誰が会議を仕切ればいいですか?
経営者が議長を務め、進行と数字の準備を担当者または外部のパートナーが担う形が現実的です。判断の権限を持つ人が同席していない会議は、意思決定パートが「持ち帰り」で終わるためです。ただし経営者が数字の準備まで担うと会議の準備が滞るので、レポートの様式を決めて準備を任せる相手は用意してください。責任者を採用するほどの予算がない段階では、外部の顧問がこの役割を担うこともあります。