この記事でわかること

  • 施策ごとに別会社へ発注すると、何が起きるのか(分散発注の構造的な弱点)
  • 1社集約と分散発注を、費用・スピード・専門性など7つの観点で比較
  • どちらが自社に向くかを決める、たった1つの判断軸
  • 分散発注のまま成果を出すために、発注側が握るべき5つの取り決め
  • 1社に寄せる場合の移行手順と、引き継ぎで失いやすい資産
  • 発注構造を見直すときのチェックリスト

広告は代理店、SEOはSEO会社、サイトは制作会社、SNSは運用代行。施策が専門化するほど、外注先は自然に増えていきます。そして増えたあとで「結局どこに何を頼んでいるのか分からない」「成果が出ないときに誰に聞けばいいのか分からない」という状態になります。この記事は、発注先を1社に寄せるべきか、分けたまま運用すべきかを決めるための整理です。

分散発注が「部分最適」になる理由は、能力ではなく構造にある

最初に押さえておきたいのは、分散発注でうまくいかないとき、個々の外注先の力量が低いわけではないことが多いという点です。広告代理店は広告を、SEO会社はSEOを、制作会社はサイトを、それぞれ真面目に改善しています。それでも会社全体の数字が動かないのは、次の3つが誰の担当でもないからです。

1

予算をどこに寄せるかの判断

広告会社からは広告予算を増やす提案が、SEO会社からは記事本数を増やす提案が、それぞれ出てきます。どちらも自分の領域では正しい提案です。しかし「今期、限られた予算をどちらに寄せるべきか」は、両方の数値を並べて見ないと決められません。その席に座る人が社内にいないと、声が大きいほうか、直近で調子がよかったほうに流れます。

2

施策をやめる判断

外注先は自分の担当施策を「やめましょう」とは言いにくい立場にあります。契約が終わるからです。結果として、効果が薄い施策も惰性で続き、予算が薄く広く散ります。中小企業の集客で効くのは、やることを増やすより、やらないことを決めることのほうが多いのですが、分散発注ではその決定者が不在になります。

3

成果の原因の切り分け

問い合わせが減ったとき、広告の問題か、サイトの問題か、検索順位の問題かを切り分けるには、すべての数値を横に並べる必要があります。会社ごとにレポートのフォーマットも計測の定義も違う状態では、並べること自体ができません。「うちの数値は悪くない」という報告が3社から届き、全体では減っている、という状況が生まれます。

支援会社側からも同じ構図が指摘されています。Webマーケティング支援を行うバリューエージェントは、施策ごとに別会社へ依頼していた企業が1社集約に切り替えた事例を公開し、個々の施策では正しい提案が行われていても、全体を見る責任者が不在になることで部分最適が起きると整理しています(出典:Web広告・SNS・HPを別々の会社に発注する「Webマーケ分散問題」|株式会社バリューエージェント(PR TIMES))。

問題は「何社に頼んでいるか」ではありません。全体を見て、成果から逆算して優先順位を決める人が、社内か社外のどちらかに存在しているかどうかです。この役割が空席のまま会社数だけ減らしても、状況は変わりません。

1社集約と分散発注を、7つの観点で比較する

どちらが優れているという話ではなく、得られるものと失うものが違うだけです。自社にとってどちらの失点が痛いかで選びます。

観点1社に集約する施策ごとに分散させる
専門性の深さ全領域で最高峰とは限らない。平均点は取れる領域ごとに尖った相手を選べる
判断のスピード1回の定例で予算配分まで決まる各社と個別に調整するため合意に時間がかかる
社内の管理工数窓口が1つ。定例も1本で済む会社数ぶんの定例・請求処理・情報共有が発生する
数値の一元化同じ定義でチャネル横断のレポートが出る定義がバラバラになりやすく、突合に手間がかかる
リスク分散相性が悪いと集客全体が止まる1社を切っても他は動き続ける
費用重複する戦略・分析フィーが1本化される各社の最低契約金額が積み上がる
社内のノウハウ1社の型に依存しやすい複数の型に触れられるが、統合するのは自社の仕事

見落とされがちなのは管理工数です。4社に発注していれば、月4回の定例、4種類のレポート、4本の請求処理、そして「A社の話をB社に伝える」という伝言が発生します。担当者が一人の会社では、この伝言だけで実務の時間が溶けます。

向き不向きは「統括できる人がいるか」で決まる

前述のバリューエージェントの整理でも、社内にWebマーケティング責任者がいて各専門会社を適切にマネジメントできる企業であれば分散発注が適している場合がある、とされています(出典:Web広告・SNS・HPを別々の会社に発注する「Webマーケ分散問題」|株式会社バリューエージェント(PR TIMES))。当社の実務感覚でも、判断軸はここに集約されます。

自社の状態向いている発注構造
マーケティング責任者がいて、チャネル横断のKPIを自分で引ける分散発注。領域ごとに強い相手を選ぶ
担当者はいるが、実務で手一杯で全体を見る時間がない分散+統括役だけ外部に置く
経営者がWebの判断を兼務している1社集約、または統括役を明確に置いた分散
特定領域だけ突出した専門性が必要(規制業種・特殊媒体など)その領域だけ切り出して分散、残りは集約

「うちには担当者がいる」と「統括できている」は別の話です。担当者が広告の管理画面とSNSの投稿とサイトの更新依頼を全部回している状態は、統括ではなく作業の分担です。判断の席が空いているかどうかは、直近3か月で「この施策を止める」という決定が1つでも出たかで確認できます。

保険代理店のWeb集客支援で施策を再設計した内容と、施策前後の売上を比較した棒グラフ
半年で売上600万円以上UP(保険代理店のWeb集客/インフルエンサー施策再設計)。個別施策を足すのではなく、KPIを分解して「どこがボトルネックか」を先に特定し、そこへ予算と手数を寄せた結果です。出典:LnX合同会社 支援実績(事例詳細はこちら

費用はどう変わるか

「まとめれば安くなる」と言われることがありますが、正確には重複している部分が消えるだけです。どの外注先も、戦略設計・現状分析・定例・レポート作成にあたる工数を料金に含んでいます。3社に発注すれば、この土台の部分を3回買っていることになります。

外部に委託する場合の一般的なレンジとして、フリーランス・業務委託のマーケターは週数日のフルリモート稼働で月20万〜30万円、SEO総合コンサルティングは月30万〜50万円、SNSコンサルは月20万〜30万円前後が目安として示されています(出典:マーケティングを業務委託するメリットとは?外注の流れ、料金相場とデメリット|ミエルカマーケティングジャーナル)。領域ごとに専門会社を並べると、最低契約金額がそのまま積み上がる構造だと分かります。

前出のバリューエージェントの事例では、4社への分散発注から1社完結へ移行した企業が広告・運用費を50%以上削減しながら成果を最大化したと公開されています(出典:Web広告・SNS・HPを別々の会社に発注する「Webマーケ分散問題」|株式会社バリューエージェント(PR TIMES))。ただしこれは1社にまとめたから安くなったというより、全体を見直して効果の薄い施策を止めた結果です。集約はそのきっかけであって、原因ではありません。

比較するときは、月額の合計ではなく「土台の重複」を数えてください。各社の見積もりから、戦略設計・分析・レポート・定例にあたる項目を抜き出して並べると、同じ作業を何回買っているかが見えます。当社の受発注の経験では、ここが総額の2〜4割を占めているケースが多いという感触です。

チャネル単位で予算をどう割り振るかの考え方は広告・SEO・SNSの予算配分の決め方|チャネル別の役割と比率の目安に整理しています。

分散発注のまま成果を出すための5つの取り決め

分散を選ぶなら、統括の機能を自社で持つということです。以下の5つを発注側が握れば、会社数が多くても全体は破綻しません。

  1. 共通のKPIと計測定義を、発注側が指定する:「コンバージョン」の定義を各社に任せると、フォーム送信・電話・資料DLの数え方がバラバラになります。GA4のイベント名まで自社で決めて全社に配ってください
  2. データとアカウントの所有権を自社に置く:広告アカウント、GA4、サーチコンソール、SNSアカウント、サーバー、ドメイン。管理者権限は必ず自社名義にし、外注先には編集権限を渡す形にします
  3. 四半期に1回、全社を横に並べる:各社との個別定例とは別に、同じフォーマットの数値を横並びにする場を作ります。ここが予算配分を決める席です
  4. 担当領域の「境界」を文書化する:LPの文言修正は制作会社か広告代理店か、記事内の内部リンクはSEO会社か制作会社か。境界の未定義がそのまま放置される領域になります
  5. 解約条件と引き継ぎ範囲を、契約時に揃える:最低契約期間も解約予告期間も会社ごとに違います。契約更新月がバラバラだと、構造を見直したいときに動けません

2つ目のアカウント権限は、後から回収するのが最も難しい項目です。広告アカウントの保有形態については広告アカウントは誰のものか?代理店変更・インハウス化で失う資産と引き継ぎ手順を参照してください。契約形態そのものの選び方はWebマーケティング支援の契約形態はどう選ぶ?準委任・請負・成果報酬・顧問契約の違いと向き不向きにまとめています。

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1社に寄せるときの移行手順

集約を決めても、全部を同時に切り替えるのは危険です。集客が止まる期間が生まれます。次の順番で進めてください。

1

現状の棚卸しを先に行う

契約中の会社、契約形態、月額、最低契約期間、解約予告期間、更新月、担当領域、アカウントの名義。この8項目を1枚の表にします。ここを作らずに動くと、解約予告が間に合わず二重払いが発生します。

2

資産の所在を確認する

広告アカウント、計測タグ、LPやサイトのソース・元データ、記事の原稿、SNSアカウントの管理権限、撮影素材。外注先の名義や環境に置かれているものを洗い出し、引き継ぎ対象として明記します。制作物の権利の扱いは契約書に書かれているはずなので、あわせて確認してください。

3

止められない施策から順に移す

広告のように止めると即日で流入が消えるものは、新体制で配信が立ち上がったことを確認してから旧体制を止めます。SEOや記事制作のように数か月遅れで効くものは、先に移して問題ありません。並走期間が1〜2か月発生する前提で予算を組んでください。

4

最初の3か月は「増やさない」

集約直後に新しい施策を足すと、数値が動いた理由が分からなくなります。最初は現行施策を引き継いで数値を揃え、どこがボトルネックかを特定してから手を入れます。初月から新施策を提案してくる相手には、なぜ今それなのかを聞いてください。

解約予告期間は、想像より長いことがあります。「1か月前」ではなく「3か月前」「更新月の2か月前まで」と定められているケースもあります。契約書を読み直すのは、次の相手を探し始める前です。契約条項の解釈に迷う場合は、弁護士等の専門家に確認してください。

よくある失敗パターン

パターン何が起きるか先に決めておくこと
「全部できます」で選んでしまう対応範囲は広いが、各領域の実務が浅く、どれも平均以下になる領域ごとに「誰が担当するか・その人の実績」を面談で確認する
統括役を置かずに会社数だけ減らす判断の席は空いたまま。1社の言い分がそのまま通る全体を見て優先順位を決める役割を、社内か社外で明示する
アカウント権限を渡したまま集約する旧体制の資産を引き継げず、過去データがゼロから移行の着手前に管理者権限を自社名義へ変更する
並走期間を取らずに切り替える切り替えの谷で問い合わせが落ち、新体制の評価ができない1〜2か月の並走を前提に予算を確保する
レポートの定義を揃えないまま比較する数値が合わず、どの施策が効いたか判断できない計測定義とレポート項目を発注側が指定する

発注構造の見直しチェックリスト

今の構造を評価する

判断の所在

  • チャネル横断で予算配分を決める人が、社内か社外に明確にいるか
  • 直近3か月で「この施策を止める」という決定が1つでも出たか
  • 各社のレポートを横に並べる場が、四半期に1回以上あるか

資産と権限

  • 広告アカウント・GA4・サーチコンソールの管理者が自社名義か
  • サイト・LPの元データとサーバー・ドメインを自社で把握しているか
  • SNSアカウントの最上位権限を自社が持っているか

契約

  • 各社の最低契約期間・解約予告期間・更新月を一覧化したか
  • 担当領域の境界(どこからどこまで)が文書化されているか
  • 成果物の権利と引き継ぎ範囲が契約書に書かれているか

LnXの見解

相談を受けたとき、当社がまず聞くのは「何社に頼んでいますか」ではなく「その3社のレポートを、最後に横に並べて見たのはいつですか」です。並べていない会社は、会社数を減らしても同じことが起きます。逆に、並べて判断できている会社は、5社に分けていても問題なく回ります。

集約そのものに価値があるわけではありません。価値があるのは、全体を見て「今はここに寄せる」「これは止める」と決める機能です。その機能が社内にあれば分散でよく、なければどこかに置く必要がある。それだけの話です。

当社は、マーケティング会社の代表が直接入る顧問という形で、この判断の席に座るご支援をしています。既存の外注先を切る必要はなく、各社の数値を横に並べて優先順位を決めるところから始められます。窓口を一本化したい、判断を一緒に持ってほしいという段階でご相談ください。

よくある質問

Q 外注先は何社までなら管理できますか?

社数の上限そのものより、定例の本数で考えるほうが実務的です。担当者が兼務であれば、月次の定例は2本が限界というのが当社の実務感覚です。それを超える場合は、四半期に1回だけ全社を横に並べる場を作り、個別定例は隔月に落とすなど、会議体の設計を変える必要があります。

Q 1社に集約すると、専門性が落ちませんか?

領域によっては落ちます。特に規制の厳しい業種や、特殊な媒体運用が必要な領域は、専門会社のほうが深いことが多いです。現実的な落としどころは、その領域だけ切り出して分散し、残りを集約する形です。すべてを1社にする必要はありません。

Q 集約先を選ぶとき、何を確認すればよいですか?

「全部できます」という説明ではなく、領域ごとに誰が担当するのかと、その人の実績を確認してください。実績は本数ではなく、その案件でどの工程を担当したかを聞くと分かります。あわせて、効果が薄い施策を止める提案をした経験があるかも聞いてみてください。

Q 分散発注のまま、統括だけ外部に頼めますか?

可能です。実行は既存の外注先に残したまま、全体の数値を見て優先順位を決める役割だけを外部に置く形です。この場合、外部の統括役に各社のレポートと管理画面の閲覧権限を渡せるかが前提になります。渡せない契約になっている場合は、先にそこを整理してください。

Q 切り替えのとき、集客が落ちる期間はどのくらいですか?

並走期間を取らずに切り替えると、広告で1〜2週間、サイト改修を伴う場合は1か月以上落ちることがあります。逆に1〜2か月の並走を確保すれば、ほぼ落とさずに移行できます。並走期間の費用を惜しんで谷を作ると、新体制の初期評価まで狂うため、結果的に高くつきます。

Q 契約書の条項が自社に不利かどうか、どう判断すればよいですか?

最低契約期間・解約予告期間・成果物の権利・アカウントの帰属の4点を読み比べるところまでは社内でできます。ただし条項の適法性や有効性の判断は法律の領域です。当社は法律事務所ではないため、個別の判断は弁護士等の専門家に確認してください。

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