この記事でわかること
- 契約書の書き方ひとつで、積み上げた記事が資産になるか借り物になるかが変わる理由
- 発注前に確認する7項目。業務範囲・検収・著作権・再委託・契約期間・解約・引き継ぎ
- 著作権条項の3つの書き方と、それぞれで自社にできること・できないこと
- AIで書かれた記事の権利関係。2026年時点で契約書に足しておくべき一文
- 解約時に引き継ぐものの一覧(記事・CMS権限・構造化データ・計測データ)
契約書で決まるのは、記事が資産になるかどうか
オウンドメディアの運用代行を比較するとき、検討の中心になるのは金額と本数、そして実績です。ところが実際に損失が出るのは、金額の差ではなく契約書の1条項です。典型的なのは次のパターンです。
2年かけて80本の記事を積み上げた。検索からの流入も問い合わせも増えた。ところが代行会社を変えようとしたところ、「記事の著作権は当社にあるため、掲載を継続する場合は使用料が発生します」と言われた。金額の差が月2万円だったとしても、80本の資産と比べる話ではありません。
記事は納品されて公開された時点で自社のものになる、と考えるのが自然な感覚です。しかし著作権は、契約で明示的に移さない限り、実際に制作した側に残ります。「サーバー上にあるのだから自社のもの」ではなく、権利の所在は契約書の文言で決まります。
もうひとつ見落とされやすいのが、記事以外の成果物です。オウンドメディアの運用には、記事本文のほかに構造化データの実装、内部リンクの設計、sitemap.xmlやllms.txtの生成フロー、CMSのテンプレートが含まれます。これらは「作業」として見積に載るため、成果物としての引き渡し対象になっていないことがよくあります。
発注前に確認する7項目
費用や本数の比較は済んでいる前提で、契約書のドラフトを受け取ったら次の7項目を確認してください。1〜5は業種を問わず共通の論点ですが、6と7はオウンドメディア特有で、ひな形には入っていないことが多い部分です。
業務範囲と「1本の納品」の定義
見積書に「月8本」とあっても、契約書に何をもって納品とするかが書かれていないと、原稿がテキストで届いた時点で納品扱いになります。入稿・画像・内部リンク・構造化データのどこまでが1本に含まれるのかを、契約書または付属する仕様書に書き込んでください。見積書と契約書で範囲がずれている場合は、契約書の記載が優先されます。
「公開状態になったページ」を納品物の定義にする検収の基準と期間、修正回数
多くの契約書には「納品連絡から◯日以内に異議がない場合は検収完了とみなす」という条項があります。記事は8本まとめて届くこともあるため、この期間が3営業日だと現実的に読み切れません。営業日換算で何日かを確認し、修正が無償で何回まで可能か、修正の範囲(誤字脱字のみか、構成変更まで含むか)も決めておいてください。あわせて、検収後に見つかった不具合の無償対応期間も確認します。この責任は2020年4月施行の改正民法で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に名称と内容が見直されているため、古いひな形をそのまま使っている契約書では表記が揃っていないことがあります(出典:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について|法務省)。
「◯日以内に連絡がなければ承認」の日数を必ず確認する著作権の帰属と、第27条・第28条の特掲
ここが最重要です。著作権法では、譲渡契約で第27条(翻訳・翻案等の権利)と第28条(二次的著作物の利用に関する権利)が譲渡の目的として特に掲げられていない場合、これらの権利は譲渡した側に留保されたものと推定されます(同法第61条第2項)。(出典:著作権法|日本法令外国語訳データベースシステム(法務省))つまり「著作権を譲渡する」とだけ書かれていると、記事のリライトや他媒体への転用に疑義が残ります。次の章で条文の書き方を整理します。
著作者人格権の取り扱い
著作者人格権は譲渡できない権利です。そのため著作権を譲り受けても、同一性保持権を根拠に「勝手に書き換えるな」と言われる余地が残ります。オウンドメディアは公開後のリライトが前提の運用なので、「著作者人格権を行使しない」旨の条項が入っているかを確認してください。ここが抜けていると、3か月後に自社でリライトすることさえ確認が必要になります。
著作権の譲渡と、人格権の不行使をセットで入れる再委託の可否と、権利の連鎖
記事制作は外部ライターへの再委託が一般的です。問題は、代行会社とライターの間で著作権の譲渡が済んでいないと、代行会社から自社への譲渡も成立しないという点です。「再委託は事前の書面承諾を要する」だけでなく、「再委託先から本件成果物に関する権利を取得済みであることを保証する」旨の条項があるかを見てください。実務でいちばん静かに抜けている箇所です。
再委託先からの権利取得の保証条項があるか確認する最低契約期間と、中途解約の条件
SEOは数値が動き始めるまでに3〜4か月かかるため、最低契約期間が6か月程度に設定されるのは合理的です。問題になるのは、その期間内に成果が出ない場合の扱いが書かれていないことです。3か月目に中間レビューを置き、あらかじめ合意した指標が動いていない場合は方針を協議する、という条項を入れておくと、期間の長さ自体が争点になりません。自動更新の有無と、更新しない場合の通知期限もあわせて確認してください。
解約時の引き継ぎ範囲
契約終了後に何を受け取れるのかを、記事以外まで含めて書いておきます。CMSの管理者権限、記事の元データ、キーワード設計の一覧、構造化データやllms.txtの生成手順、GA4とSearch Consoleの権限——これらが引き継ぎ対象に含まれていないと、記事だけが残って運用が止まります。後述のチェックリストをそのまま契約書の別紙にしても構いません。
引き継ぎ対象を別紙で一覧化して契約書に添付する著作権条項の3つの書き方
契約書に出てくる著作権条項は、実務上おおむね次の3パターンに分かれます。どのパターンかで、自社が記事に対してできることが大きく変わります。
| 条項の書き方 | 自社にできること | できない・疑義が残ること |
|---|---|---|
| A. 著作権は受託者に留保し、発注者に利用を許諾する | 契約期間中、自社サイトに掲載する | リライト、他媒体への転用、解約後の掲載継続。許諾の範囲外の利用はすべて要相談 |
| B. 著作権を譲渡する(第27条・第28条の記載なし) | 複製・公衆送信(掲載の継続)。解約後も掲載できる | 翻案(リライト・要約・別媒体向けの書き換え)に疑義。第61条第2項により留保と推定される |
| C. 著作権(第27条・第28条の権利を含む)を譲渡し、著作者人格権を行使しない | 掲載・リライト・要約・資料や動画への転用・他社への運用引き継ぎ | —(オウンドメディア運用としては必要な範囲が揃う) |
オウンドメディアの運用代行なら、Cを基本にしてください。公開して終わりではなく、順位や表示回数を見て記事を書き換える工程が成果を左右するため、翻案の権利がない状態では運用そのものが成立しません。Bで契約してしまうと、リライトのたびに「これは翻案に当たるのか」という確認が必要になります。
Aが妥当なケースもある
権利を留保する形が一律に不当というわけではありません。取材・撮影を伴う記事や、ライターの署名記事として出す前提のコンテンツでは、Aやその中間形が選ばれることがあります。その場合は、許諾の範囲(掲載期間・改変の可否・転用先)を条項の中で具体的に列挙してもらってください。「本件成果物を自社の広報目的で利用できる」といった抽象的な書き方だと、後から解釈が分かれます。
なお、本記事は契約実務でよく論点になる箇所を整理したものです。個別の契約書の妥当性は事案によって変わるため、金額が大きい場合や条項の修正交渉が必要な場合は、弁護士のリーガルチェックを受けてください。当社は法律事務所ではないため、条項の適法性についての判断は行っていません。
AIで書かれた記事の権利関係
2026年時点では、記事制作の工程に生成AIが入っているのが前提になりました。この前提が入ると、従来のひな形では埋まらない箇所が2つ出てきます。
1. 「著作物性」があるかどうかで、譲渡条項が空回りする
人の創作的な関与がほとんどないまま生成された文章は、著作権が発生していない可能性があります。著作権が発生していなければ、「著作権を譲渡する」という条項は対象のない条項になります。他社が同じ内容を利用しても差し止められない、という状態です。オウンドメディアの実務で困るのはここではなく、次の点です。
2. 「他社の記事と実質的に同じ」リスクを誰が負うか
生成AIは同じテーマに対して似た構成・似た表現を返します。納品された記事が他社の既存記事と酷似していた場合、責任の所在が契約書に書かれていないと、指摘を受けた時点で自社が対応することになります。次の3点を契約に入れておくと、この負担が整理できます。
- 第三者の権利を侵害していないことの保証(表明保証条項)と、侵害が判明した場合の対応・費用負担
- 制作過程での生成AIの利用可否と、利用する場合の範囲(構成案までか、本文生成まで含むか)
- コピーチェックの実施と、その結果の提出(ツール名と判定基準まで決めておく)
「AIを使わないこと」を条件にする必要はありません。実務では、判断の工程に人が入っているかどうかが品質を分けます。キーワードの選定、記事の狙い、盛り込む一次情報を誰が決めているのかを聞き、そこに人が入っていれば作業工程でAIを使うことは問題になりません。契約書には「利用を禁止する」ではなく「利用する場合の範囲と、成果物に対する保証」を書くのが実務的です。
解約時に引き継ぐものの一覧
記事だけを受け取っても、運用は続きません。次の一覧を契約時に別紙として合意しておくと、乗り換えや内製化のときに止まりません。
契約終了時に引き渡しを受けるもの
【コンテンツ】
- 公開済み記事の全文データ(HTMLまたはCMSのエクスポート)
- 記事内で使用した画像・図表の元データと、素材のライセンス情報
- 制作中・未公開の原稿と構成案
【設計・実装】
- キーワード設計の一覧(対策語・想定検索意図・カテゴリの割り当て)
- 内部リンクの設計方針とリンク一覧
- 構造化データ(JSON-LD)の実装内容と、テンプレートの所在
- sitemap.xml・llms.txtの生成・更新手順
- 記事テンプレートと入稿フローの手順書
【権限・データ】
- CMS・サーバー・ドメインの管理者権限(代行会社名義になっていないか)
- GA4・Search Consoleの管理者権限と、過去データの保持
- 順位・表示回数の計測に使っていたツールのデータ(エクスポート)
- 代行会社側アカウントの権限削除の手順と期限
記事は本数が積み上がってから効いてくる
引き継ぎを丁寧に決める理由は、記事の価値が本数と時間に比例して出てくるからです。数本の段階なら作り直せますが、100本規模になると作り直しは現実的ではありません。参考として、当社が自社のオウンドメディアで実際に出した推移を挙げます。
この規模になると、記事本文だけでなく内部リンクの構造とカテゴリの設計そのものが資産になっています。本文の権利だけを譲り受けても、設計とテンプレートが引き継がれなければ、同じ速度で運用を続けることはできません。引き継ぎ対象を「記事」と書くのではなく、上の一覧の粒度で書いておく理由がここにあります。
下請法・フリーランス新法で発注側に生じる義務
個人のライターや小規模な事業者に直接発注する場合、発注側にも法令上の義務が生じます。2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、取引条件の書面等による明示や、支払期日の設定が求められます。以下は公正取引委員会が公表している内容にもとづく整理です(出典:フリーランス法特設サイト|公正取引委員会)。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| 取引条件の明示 | 業務内容・報酬額・支払期日などを、書面または電子メール等で明示しているか |
| 支払期日 | 成果物を受け取った日から数えて60日以内の日を支払期日に設定しているか |
| 一方的な変更・やり直し | 正当な理由なく報酬を減額したり、無償でやり直しをさせる内容になっていないか |
| 代行会社経由の場合 | 再委託先への発注条件が適正か(代行会社の責任だが、体制の健全性は選定の判断材料になる) |
代行会社に依頼する場合、これらの義務を負うのは基本的に代行会社側です。ただし、極端に安い記事単価の提案を受けたときは、その単価が再委託先にどう配分されているのかを一度確認してみてください。品質のばらつきや納期遅延は、体制の無理としてこちらに返ってきます。
契約前チェックリスト
契約書のドラフトを受け取ったら確認する項目
【成果物と検収】
- 「1本の納品」の定義が、公開状態になったページとして書かれている
- 検収期間が営業日換算で現実的な長さになっている
- 無償の修正回数と、修正の範囲が明記されている
- 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)の期間が確保されている
【権利】
- 著作権の譲渡に、第27条・第28条の権利が含まれると明記されている
- 著作者人格権を行使しない旨の条項がある
- 第三者の権利を侵害していないことの表明保証と、侵害時の対応が書かれている
- 再委託先から権利を取得済みであることの保証条項がある
- 生成AIの利用範囲と、コピーチェックの実施が取り決められている
【期間と出口】
- 最低契約期間と、中間レビューのタイミングが決まっている
- 自動更新の有無と、更新しない場合の通知期限を確認した
- 解約後も記事の掲載を継続できることが書面にある
- 引き継ぎ対象が、記事以外(設計・実装・権限・データ)まで一覧化されている
- CMS・GA4・Search Consoleの管理者権限が自社名義になっている
このチェックリストは、契約書を受け取る前の相見積もりの段階で各社に渡してしまって構いません。「この条件で問題ありませんか」と先に聞くと、権利や引き継ぎの扱いに対する各社の姿勢が、契約交渉に入る前に分かります。ここで難色を示す会社は、契約後の運用でも同じ姿勢になります。
LnXの見解
権利や引き継ぎの条項を細かく確認するのは、代行会社を疑うためではありません。オウンドメディアは、成果が出るまでの時間が長く、成果が出たあとに担当者や体制が変わる可能性が高い施策だからです。3年後に誰がこのメディアを触っているか分からない。だから、そのときに触れる状態で受け取っておく、という話です。
実務で最も多い落とし穴は、著作権よりも「設計とテンプレートが引き継がれない」ことです。記事の権利は交渉すれば通ることが多いのに、キーワード設計の一覧や構造化データの実装手順は、そもそも成果物として認識されていないため引き渡しの対象から漏れます。結果として、記事は残ったのに次の1本を同じ品質で作れない状態になります。契約書に別紙を1枚足すだけで防げるので、上の一覧をそのまま使ってください。
当社がオウンドメディア運用をお引き受けする場合、記事の権利はお客様に譲渡し、キーワード設計・記事テンプレート・入稿フロー・構造化データやllms.txtの更新手順まで、運用が続く形で残すことを前提にしています。自社メディアで約3ヶ月・113記事、ページ表示回数約7倍・問い合わせ約15倍という結果を出せたのも、判断は人、作業はAIという切り分けを手順として文書化したからです。手順が残っていれば、体制が変わっても速度は落ちません。他社の契約書を並べて比較している段階でのご相談も歓迎です。設計から入稿・改善まで、まとめてお引き受けします。
よくある質問
Q 「著作権は当社に帰属します」と契約書に書かれていたら、諦めるべきですか?
まず交渉してみてください。記事制作の実務では、著作権を発注者に譲渡する形が一般的なので、修正に応じる会社は少なくありません。それでも留保したいと言われた場合は、利用許諾の範囲を具体的に列挙してもらってください。掲載期間、リライトの可否、他媒体への転用、解約後の掲載継続の4点が書かれていれば、実務上の支障はかなり減ります。抽象的な許諾文だけの場合は、後から解釈が分かれます。
Q 「著作権を譲渡する」と書いてあれば、リライトも自由にできますか?
その一文だけでは疑義が残ります。著作権法第61条第2項では、譲渡契約で第27条(翻訳・翻案等)と第28条(二次的著作物の利用)の権利が譲渡の目的として特に掲げられていない場合、これらの権利は譲渡した側に留保されたものと推定されます。リライトや要約は翻案に当たり得るため、「著作権(第27条および第28条の権利を含む)を譲渡する」という形で明記されているかを確認してください。あわせて著作者人格権の不行使条項も必要です。
Q すでに契約して運用中です。いまから条項を直せますか?
更新のタイミングで交渉するのが現実的です。多くの契約は自動更新になっているため、更新の何か月前までに申し出るという通知期限を先に確認してください。契約期間の途中でも、覚書を1枚交わすことで権利や引き継ぎの取り決めを追加できます。乗り換えを検討している段階で言い出すと交渉が難しくなるので、関係が良好なうちに整理しておくほうが通りやすいです。
Q 代行会社がAIで記事を書いているかどうかは、契約書に書かせるべきですか?
禁止する必要はありませんが、範囲と保証は書いておいてください。実務では作業工程でAIを使うこと自体は問題にならず、キーワード選定や記事の狙い、盛り込む一次情報を人が決めているかどうかが品質を分けます。契約書に入れるべきは、第三者の権利を侵害していないことの表明保証、侵害が判明した場合の対応と費用負担、コピーチェックの実施と結果の提出です。この3点があれば、AIの利用可否そのものを争点にする必要はありません。
Q 最低契約期間6か月は長すぎませんか?
SEOは検索側の数値が動き始めるまでに3〜4か月、問い合わせが動くまでに6か月程度かかるため、この期間設定自体は妥当です。問題になるのは、期間内に何も動かなかった場合の扱いが書かれていないことです。3か月目に中間レビューを置き、あらかじめ合意した指標(表示回数や掲載順位の推移)が動いていない場合は方針を協議する、という条項を入れてください。期間の長さより、途中で軌道修正できる仕組みがあるかが重要です。
Q 解約時の引き継ぎで、追加費用を請求されることはありますか?
あります。データのエクスポートや手順書の作成に工数がかかるという理由で、引き継ぎ作業が別途見積になるケースです。防ぐには、契約時に引き継ぎ対象の一覧を別紙で合意し、その引き渡しが月額費用に含まれることを明記してください。有償になる場合でも、上限額や算定方法を先に決めておけば、解約を決めてから金額を提示される状況を避けられます。