この記事でわかること

  • 年間計画を売上目標から逆算して作る5つの手順
  • 担当者の稼働時間から、実行できる施策の量を決める方法
  • 四半期ごとの役割分担と、12か月のカレンダーの作り方
  • 予算を「維持・育成・実験」の3枠に分ける考え方
  • 「やらないことリスト」と、計画が機能していないサイン5つ

年間計画は「売上目標からの逆算」で作る:3つの前提

結論から言うと、中小企業のマーケティング年間計画は、「やりたい施策の一覧」ではなく「売上目標と担当者の稼働時間から、できる量を逆算した表」として作ると続きます。施策を先に並べると、人手が足りずに3月で止まり、年間計画が棚に残りがちだからです。

作り始める前に、次の3つを前提として確認してください。

  • 計画の目的は「施策を増やすこと」ではなく「優先順位を固定すること」:年間で何をやるか、何をやらないかを先に決めておけば、日々の判断が速くなります。
  • 年間で決め切らず、四半期ごとに見直す前提で作る:12か月先の細部は決めても外れます。年間は方針と枠、細部は四半期ごとに更新します。
  • 担当者が兼任かどうかで設計が変わる:専任がいるのか、他の仕事と兼ねた担当者が月に何時間使えるのかを先に確認します(手順2で扱います)。

なお、マーケティング戦略そのもの(誰に何を売るか)の立て方は中小企業のマーケティング戦略の立て方|予算・KPI・施策で整理しています。この記事は、その戦略を「12か月のスケジュール」に落とすところに絞ります。

手順1:年間目標を3つの数字に分解する

年間の売上目標を、そのまま「マーケティングの目標」にしないでください。売上は営業や商品の力も含むため、マーケティングが直接動かせる数字に分解する必要があります。次の3つに切り分けます。

数字意味決め方
年間の目標件数問い合わせ・資料請求・来店予約など、成果として数える件数売上目標 ÷ 平均単価 ÷ 成約率で必要な商談数を出し、そこから問い合わせ数に戻す
月次の見込みの推移季節変動を入れた月ごとの件数の山谷前年の月別実績があればそれを使い、なければ繁忙期と閑散期だけ決める
許容する獲得単価1件あたりにかけてよい費用の上限粗利から逆算(例:粗利の3割までなら投資できる、など自社の基準を一つ決める)

たとえば、年間売上目標が1,200万円、平均単価が60万円、成約率が20%なら、必要な商談は100件、そこからさらに問い合わせ数に戻す、という順に逆算します(数字は考え方を示す仮置きの例です)。ここで重要なのは、現状の実績から無理のない数字を置くことです。去年の実績が月5件なのに、年初から月30件を目標にすると、計画が最初の数か月で破綻します。

CAC(顧客獲得単価)とLTVの考え方はCACとLTVの計算方法と改善の進め方で詳しく扱っています。許容する獲得単価に迷う場合は、先にこちらを参照してください。

手順2:担当者の稼働時間から「できる量」を決める

年間計画で最も見落とされるのが、実行する人の時間です。施策を決める前に、担当者が月に何時間使えるのかを数字にします。

作業は、おおまかに「判断する時間」「作る時間」「見る時間」の3つに分けます。たとえば、兼任の担当者が月20時間を確保できるとして、定例の振り返りと数字の確認に5時間、SNSやブログなどの制作に10時間、広告や改善の判断に5時間と割り当てると、手を広げられる施策は2つまでと分かります。この枠をはみ出す施策は、外注するか、やらないかのどちらかに振り分けます。

稼働時間の見積もりは、必ず「確保できる時間」で行う。「やれればこれだけ」という理想の時間で見積もると、繁忙期に確実に破綻します。他の業務を引いた「現実に空く時間」を、担当者本人に聞いてください。

外注する場合は、費用だけでなく「発注側に残る工数」も計算に入れます。広告運用や記事制作を外部に任せても、方針の確認、素材の提供、成果物のチェックには社内の時間がかかります。外注の費用と社内工数の目安は、マーケティング担当1人の会社の体制と外注の分け方が参考になります。

手順3:四半期ごとに役割を分ける

年間を一気に埋めるのではなく、四半期ごとに「その3か月の役割」を一言で決めます。役割は、土台づくり・集客拡大・改善・刈り取りのように、性質で分けると決めやすくなります。

1

第1四半期:土台をつくる

計測の整備、受け皿(サイトやLP)の改善、既存の数字の棚卸しをします。成果が出るのは先ですが、ここで計測が整っていないと、後の判断がすべて勘になります。

2

第2四半期:集客の本数を増やす

土台の上で、広告・SEO・SNSなどのうち決めた2〜3施策に絞って本数を増やします。全部に手を出さず、手順2で出した稼働時間に収めます。

3

第3四半期:数字を見て直す

第2四半期の数字から、効いた施策を残し、効かなかった施策を止めるか直します。新しいことより、改善に時間を使う時期です。

4

第4四半期:刈り取りと来期の準備

繁忙期に向けた刈り取り(既存顧客・見込み客へのアプローチ)と、来期の計画づくりを同時に進めます。年間の実績が出るこの時期に、来期の数字を置き直します。

業種によって繁忙期は違います。製造業のように検討期間が長い業種では、成果が出るまでのタイムラグを考え、四半期の役割を前倒しにしてください。四半期ごとの見直しを前提にすれば、年間の計画は「方針の骨組み」として機能します。

手順4:月次カレンダーに落とす

四半期の役割が決まったら、月ごとに「やること」「担当」「確認する数字」を1行ずつ書きます。細かく書きすぎず、1か月あたり3項目までにすると、実際に回ります。

月やること(最大3項目)確認する数字
1〜3月計測の確認/サイト・LPの改善点の洗い出し/月次の数字の記録開始問い合わせ数、流入元別の件数
4〜6月集客施策2つの本数を増やす/月次定例で数字を確認/素材の定期作成施策別の獲得単価、問い合わせ数
7〜9月効いた施策の継続と拡大/効かない施策の見直し/LPの改善成約までの率、獲得単価の推移
10〜12月繁忙期に向けた刈り取り/年間の振り返り/来期計画のたたき台年間の目標件数に対する達成率

この表は考え方の一例で、実際には自社の繁忙期や決算月、展示会などの固定イベントを先に書き込んでから、残りの月に施策を配置します。先に固定イベントを置くと、現実に動かせる余白が見えます。月次で何を確認するかはマーケティングの月次定例は何を話すべきか|数字の振り返りから翌月アクションを決める会議設計で、会議の進め方まで説明しています。

手順5:予算を3つの枠に分ける

予算は、施策ごとにばらばらに決めるのではなく、「維持」「育成」「実験」の3つの枠に分けると配分の判断が楽になります。比率は、当社が実務で見ている目安であり、業種や状況で変わります。

枠中身配分の目安(当社の実務上の目安)
維持すでに成果が出ている施策の継続(広告の運用費、更新中のコンテンツなど)全体の6〜7割
育成成果が出始めた施策の拡大、時間がかかる施策(SEO・記事など)への投資全体の2〜3割
実験新しい媒体・手法の小さなテスト。失敗しても全体に影響しない額全体の1割程度

ポイントは、実験の枠を最初から決めておくことです。枠がないと、成果が出ない施策を「もう少しだけ」と延ばし続けたり、逆に新しい施策に維持費が食われたりします。さらに、想定外の出費に備えて全体の1割前後を予備として持つ会社もあります。予算全体の決め方や、広告・SEO・SNSへの配分はマーケティング予算の決め方と配分の目安で扱っています。

「やらないこと」を決め、見直しのルールを置く

年間計画の価値は、何をやるかより何をやらないかを先に決めておけることにあります。やらないことが決まっていないと、新しい施策の誘いやトレンドに計画が振り回されます。

「やらないことリスト」には、次の3種類を書きます。

  • 今期はやらない施策:稼働時間と予算の枠から外れたもの。「来期に再検討」と期限を付けておきます。
  • やめる基準:たとえば「3か月続けても獲得単価が許容額の2倍を超えたら停止」のように、数字で決めておきます。
  • 追加する条件:新しい施策を入れるなら、何かをやめるか、予算の実験枠を使うことを条件にします。

見直しのルールも、年間計画の一部として明文化します。月次は数字の確認、四半期は役割と枠の更新、年末は来期の置き直し、という3層にしておけば、計画が形骸化しにくくなります。やめ時の判断は成果の出ない施策はいつやめる?Webマーケティングの撤退基準と見直しサイクルの作り方に詳しくまとめています。

年間計画シート1枚の項目と記入例

ここまでの内容を、A4用紙1枚(またはスプレッドシート1枚)にまとめます。項目は次の8つです。

項目書く内容記入例(架空・仮置き)
1. 年間の目標件数手順1で出した件数問い合わせ120件(月平均10件)
2. 許容する獲得単価1件あたりの上限1件あたり1.5万円まで
3. 担当者の稼働時間手順2の確保できる時間担当者1名、月20時間
4. 四半期ごとの役割各3か月を一言でQ1 土台/Q2 拡大/Q3 改善/Q4 刈り取り
5. 重点施策(2〜3つ)稼働時間に収まる範囲リスティング広告、ブログ、既存顧客へのメール
6. 予算の3枠維持・育成・実験の金額維持70/育成20/実験10(単位:万円/月)
7. やらないこと今期見送る施策と、やめる基準新規SNS媒体は来期。獲得単価が3万円超で3か月続いたら停止
8. 見直しの日月次・四半期・年末の日付毎月第1営業日/3・6・9月末/12月第2週

※ 記入例は考え方を示すための架空の数字(仮置き)で、実在の会社の事例ではありません。

この1枚を社内の関係者(経営者・営業・担当者)が同じものを見られる状態にしておくことが、「計画は作ったが誰も見ていない」を防ぐ一番の方法です。

計画が機能していないサイン5つ

年間計画を作っても、機能していないことがあります。次の5つに当てはまったら、計画の見直しどきです。

  1. 月次の数字を誰も見ていない:計画と実績の差が分からないまま、3か月が過ぎている。
  2. 施策が増える一方で、やめた施策がない:稼働時間が足りず、どれも中途半端になっている。
  3. 担当者が「忙しい」と言い続けている:手順2の稼働時間の見積もりが現実とずれている可能性があります。
  4. 計画の目標件数と、営業が見ている数字が違う:問い合わせの定義が営業と共有されていない。
  5. 四半期の見直しをしていない:年初の計画のまま走り続けている。

5つのうち2つ以上に当てはまる場合は、施策を足す前に、手順2の稼働時間とやらないことリストから見直してください。

LnXの見解

年間計画づくりで一番大事なのは、立派な計画書を作ることではなく、担当者が実際に回せる量に絞り、月次で数字を見て直し続けることです。社内に専任のマーケティング責任者がいない会社ほど、施策を広げすぎて止まるケースが多いと感じています。

当社のマーケティング顧問では、最初の1か月で現状分析と方針設計を行い、2か月目以降に実行と改善を進めます。年間計画のたたき台づくり、月次の数字レビュー、翌月のアクション整理を、経営者や担当者の判断を支える形で行っています。マーケティング顧問が必要かどうかの判断軸は、マーケティング顧問が必要か分かる10の質問にまとめています。

保険代理店のWeb集客・インフルエンサー施策の再設計内容3行と、施策前後の売上を示す棒グラフ
半年で売上600万円以上UP。(保険代理店のWeb集客/インフルエンサー施策再設計)成果を要素に分け、「人数を増やす」のではなく「訴求回数とCVR」に論点を絞って再設計しました。成果報酬型の支援事例であり、顧問契約の成果や年間計画づくりの成果ではありません。出典:LnX合同会社 支援実績(事例詳細はこちら)

この事例は「成果を要素に分けて論点を絞る」という考え方の一例で、他の会社で同じ結果を保証するものではありません。当社のマーケティング顧問は、月額8万円〜の入口プランから、月2回の定例で計画づくりに伴走するグロース伴走プラン(月15万円)、社外のマーケティング部長として統括する責任者プラン(月30万円)まであり、最低契約期間は原則3か月です(いずれも税別想定)。広告運用やLP制作などの実作業は別途お見積もりで、広告費・制作費も含まれません。

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よくある質問

Q マーケティングの年間計画は、いつまでに作ればよいですか?

期初の1〜2か月前に、たたき台を作るのが理想です。ただし年間で細部まで決め切る必要はありません。年間は方針と枠、細部は四半期ごとに更新するつもりで、まず1枚のシートに8項目を埋めてください。期初を過ぎていても、今から次の四半期の役割を決めるだけで効果があります。

Q 年間計画は、どのくらい細かく書くべきですか?

月ごとに「やること(最大3項目)」と「確認する数字」を書く程度で十分です。細かすぎる計画は、実際の変化に合わせて更新されず形骸化します。細かく決めるのは直近の3か月までにして、先の月は方針だけにとどめてください。

Q 担当者が兼任でも、年間計画は作れますか?

作れます。むしろ兼任の会社こそ、稼働時間から逆算する必要があります。確保できる時間(他の業務を引いた現実に空く時間)を先に決め、その枠に収まる施策を2つ程度に絞ります。収まらない施策は外注するか、「やらないこと」に入れます。

Q 予算が少ない場合は、どう配分すればよいですか?

予算が少ないほど、施策を絞ることを優先してください。維持・育成・実験の3枠のうち、まず成果が出ている施策の維持枠を確保し、育成に回せる額が小さければ、実験の枠は小額のテストにとどめます。予算全体の考え方は、マーケティング予算の決め方の記事も参考にしてください。

Q 年間計画と中期経営計画は、どう関係しますか?

年間計画は、中期の目標を「今年の件数と施策」に落とした下位の計画という位置づけです。中期計画に売上や顧客数の目標があれば、それを手順1の年間目標の出発点にします。中期計画がない場合は、前年実績に無理のない伸び率を置くところから始めても構いません。

Q 計画どおりに進まなかったときは、どうすればよいですか?

計画を直すことは失敗ではありません。月次で計画と実績の差を確認し、四半期ごとに役割や枠を更新する前提で作っているからです。まず原因が稼働時間・予算・施策の効果のどれなのかを切り分け、やめる施策と続ける施策を決め直してください。

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